コタツとバーとタトゥーとヘア。「髪を切ること」から始まらない〈too good〉のサロンづくり

コタツとバーとタトゥーとヘア。「髪を切ること」から始まらない〈too good〉のサロンづくり

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特集:気になるサロン

Photo:ふかみちえ

ヘアサロンを訪ねたはずなのに、そこに見えたのはコタツが敷かれたくつろぎの空間だった。地図を見直しても、ここが目的地で間違いないのだけれど…。

大阪・浪速にある〈too good〉(トゥーグッド)は、そんな“ヘアサロンらしい顔”をしていないヘアサロンだった。

この場所を形づくる二人——ディレクター的な立ち位置の斉藤傑さんと、美容師をしながらタトゥー施術も手がける安達さんに話を聞いた。

(左から) 斉藤 傑(さいとうすぐる)  @suguru_saito1031 1989年生まれ、兵庫県出身。関西美容専門学校卒業。大阪市内1店舗、フリーランスを経て、2023年に大阪・浪速市にtoo goodをオープン。サロン全体のディレクター的な立場を担っている。

安達竜輝(あんたつりゅうき)  @antatsuryuki 1988年生まれ。兵庫県出身。グラムール美容専門学校卒業後1店舗を経て、フリーランスに。フリーランス時代に斉藤氏に出会いtoo goodにオープニングメンバーとして参加。現在、同店にてタトゥーの施術も手がけている。
「“ヘアサロン”をつくると、それで終わっちゃう」

〈too good〉の1階にはバーとコタツが敷かれた空間、そして奥にタトゥーブースがある。ヘアサロンの気配はまったく感じられないフロアだ。

入り口脇の見落としそうな細い階段を上ると、やっとそれらしい顔が覗く。

「はじめからヘアサロンをつくろうとすると、それだけで終わっちゃうなと思ったんです」

この空間の成り立ちについて、斉藤さんはそう切り出した。ヘアをつくって送り出し、また次のカットのタイミングで会う。そんな“サロンらしいサロン”の関係性に、どこか物足りなさを感じていたという。

「美容師とお客さまの関係が、髪だけで完結するのがおもしろくなくて。もっとライフスタイルまで入り込みたいし、お客さま側から始まる何かがあってもいいはずだなって」

だから〈too good〉はあえて、サロンから始まらない空間を目指した。

バー、タトゥー、ネイル、シルバーアクセサリーや古着。

髪とは直接関係がないように見える要素も、すべては「サロンと客」という記号的な関係を超えるためのもの。人と人のつながりの濃度を高めるための仕掛けなのだ。

おもしろいことはBarの会話から

夜になると、1階のバーには自然と人が集まる。バーのマスターの知り合い、ヘアサロンのお客さま、そして営業を終えたスタッフたち。

「僕らも、いつもここで飲んでいます。わざわざミーティングを組まなくても、とりとめのない『こんなんしたいよね』という会話から、新しいことが生まれてくる」

そう安達さんが話す通り、ここでの出会いが化学反応を起こす確率は結構高い。古着屋を営むお客さまによる古着イベントや、さまざまな知り合いを巻き込んだDJイベントが開催されたこともあるそうだ。

「ここで出会いをきっかけに髪を切りに来てくれたら、まぁ儲けもん、ぐらいの感覚ですね(笑)」と斉藤さん。

冗談のように話すその言葉に、サロンのスタンスがよく表れている。

タトゥーアーティストにもなった理由

安達さんがタトゥーを提供し始めたのも、そんな日常のやり取りがきっかけだった。

もともと絵を描くのが好きだった安達さん。ある日、スタッフから「タトゥー入れてくれませんか?」と言われたのだ。

「最近のファッション系タトゥーはシンプルで、ラフな絵柄が多い。もしかしたら自分にもできるかもしれないと、練習し始めました」

幸いにも以前所属していたアーティストが残した施術用のベッドもあり、気づけば安達さん専用のタトゥーブースができていた。

安達さんはタトゥーだけでなく、リクエストがあればネイル施術も行う

今ではヘアサロンのお客さまだけでなく、SNSを見て海外からも留学生などがヘアとタトゥーを求めて来店する。タトゥーメニューには、明確な料金設定をしていない。

「イベントで提供することもあるので、その人との関係性やデザイン、タイミングで決めています。システム化し過ぎない感じも、古いけど新しい感覚ですよね」と、安達さんは笑う。

斜め上に突き抜ける生存戦略

今のところタトゥーメニューやバー、1階でのイベントは、ヘアメニューと比べて〈too good〉の売り上げの柱にはなっていない。

でも斉藤さんは今後も、スタッフやお客さまから「やりたい」ことが上がったら、積極的に受け入れたいと話す。

「ディレクター的な役割を担っているけれど、サロンづくりもスタッフが好きなものを買ってくる」と斉藤さん

「集客や売り上げに繋がらないものを排除してきたのが、これまでのサロンのあり方だと思います。だけどそれではおもしろくないじゃないですか。そんな普通のサロンの形をなぞるなら、僕らがやる意味もないですから」

目指すのは、「斜め上に突き抜ける」こと。その思想は、サロンの運営スタイルにも反映されている。所属する7人のスタイリストは、全員アシスタントをつけないマンツーマン制だ。

「一人ひとりと向き合う濃度を高めることこそがバリューになると思っています」

完成させ過ぎないから、馴染む場所

2階のヘアサロンには、つくりかけの誰かの部屋のような、居心地の良い雑多さがあった。

スタッフそれぞれが好きなものを買ってきて、販売する書籍や雑貨、アクセサリーと混ざり合い、日々サロンのムードが変わっていく。

いつまでも完成されない。それが〈too good〉らしさのようだ。

「ヘアスタイルも、僕たちに共通しているのは“切り立て感”のない、その人にフィットしたものを提供していること。空間もヘアも、こだわりがないわけじゃないけど、ないように見せたいんですよね」

安定よりも、おもしろさを。

「僕らも飽き性だし、お客さまも変わることを楽しんでくれる人が多い。1階も2階も、どんどん変わっていくと思います」

次はこの空気感をそのままに、ヨーロッパに持って行きたいと斉藤さんは目を輝かせる。

髪を切るだけの場所じゃない、サロンが関わる人すべてのハブになる。〈too good〉は、そんな可能性を感じさせるヘアサロンだ。

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執筆者
mackey

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