最高750万円と、顧客ゼロから1年半で460万円。
関西を拠点に11店舗を展開する〈ioe〉には、異なる勝ち方で数字を積み上げる二人の若手がいる。楽人さんと陰山英明さんだ。
同じサロンに身を置きながら、まったく異なる道筋で結果を出してきた二人。その数字の裏にある思考と積み重ねを追った。


楽人さんは現在美容師6年目。1年目で月間200万円を叩き出し、それからも売上を伸ばし続け、昨年は750万円を突破。梅田・神戸・表参道を行き来しながら、現在もアベレージ550万円を維持し続ける〈ioe〉のエースだ。
楽人さんは新卒で地元・西宮の老舗サロンに入社。その年のうちに、インスタ広告で見かけた〈CHAINON〉に魅力を感じて転職。オープン直後の武庫之荘店でグループ最速デビューを目指して駆け上がり、同年12月に最速デビューを達成した。美容師1年目のスピードデビュー、ここからの数年間はがむしゃらな日々だったという。
「デビュー前から“紹介”に特化しようと決めてました。技術もSNSも強みがなかったから、とにかく友達に声をかけて、さらにその友達にも『担当させてください』って手紙書いて。面白がって来たくれた人たちを、全員ファンにするつもりで必死でした。夢とか目標を言葉にしていたら、だんだん応援してくれる人が増えていったんです」

デビューが早かったのもあって年の近い友人が集まりだし、新規リピート率も7割越え。1年目にして売上200万円に到達し、2年目には300万円へと伸びていった。やがて、〈CHAINON〉から独立した先輩・大垣峰志さんが立ち上げた〈ioe〉へ移籍。神戸と大阪を行き来しながら、SNS集客にも取り組み始める。

楽人さんがまず取り組んだのはInstagram。中明度のツヤカラーをバックスタイルで発信すると、すぐに100万ビューを超え、TikTokも開始すると3カ月ほどでSNSからの新規が月100名ほどまでに伸びた。しかし、3年目にして月間新規140名という数字を出しながらも、“新規集客メイン”の働き方に限界を感じていたという。

「最初は“売れてる美容師=バズって新規が来る人”ってイメージだったので、それを目指してやってたんです。でも『これって俺のスタイルじゃないな』って耐えられてなくなってしまって。僕のルーツは“紹介”なので、接客とリピートに重きを置くようにしてから、アベレージが500〜600万円まで一気に上がりました」
取り組んだのは、1年目から積み上げてきた「接客」のマニュアルと教育。予約枠が5枠まで埋まっていてもサービスにムラが出ないよう、コーミングや塗布の仕方、説明の順序まで統一。さらに顧客の心理傾向をジャンル分けし、スタッフも「楽人さんだったらどう接客するか」がわかる仕組みをつくってきた。

「早期デビューやった分、売上をつくるには最初は接客しかなかった。だから当時に立ち返って、その知見を言語化したんです。そして初回のお客さんの満足度を1年で100としたら、初回でまず80くらいは作り込む。どうなりたいかと、僕が叶えられることを一緒に決めておいて、次に来たくなる理由をその場でつくるんです」
新規が30〜40名ほどに落ち着いた代わりに、次回予約率は常時70〜80%を維持。2回目以降はほとんどの顧客が「お任せ」の状態で来店し、カウンセリングが15秒ほどで終わることも珍しくないそうだ。

“オフライン”を軸に信頼関係を積み上げてきた今年の12月、売上目標は1000万円を掲げている。すでに730万円は次回予約で埋まっているそうだ。

「最終的には“日本一の美容師”になりたいって、ずっと言ってて。今回の1000万円が、自分にとってひとつの区切りになる気がしています。ここを越えたとき、月5000万を本気で目指すのか、それとも美容師以外のビジネスで日本一を目指すのか。この1000万を超えた先でどっちに進むかを決めようと思っていて、いまがその分岐点なんです」

〈pre.by ioe三宮店〉と〈ioe元町店〉でマネージャーを務める陰山英明さんも、短期間で急成長した〈ioe〉のエース格だ。昨年2月、姫路から神戸へと拠点を移し、顧客ゼロの状態からのリスタート。髪質改善ストレートを武器に1年半で売上460万円まで上り詰めた。
陰山さんが〈ioe〉に移ってまず考えたのは、「自分をどうブランディングするか」。姫路のサロンではショートを武器にしていたが、ここでは違う打ち出しにトライすることにした。
「ショートでいこうと思ってたんですけど、技術をもっと深めたくてこのサロンに来たっていう思いもあって、髪質改善ストレートを学んで勝負することにしたんです。最初から得意だったわけじゃなくて、ここから全部勉強して自分の武器にしました」

髪質改善を軸にしたものの、働くエリアも変わり顧客はゼロから再スタート。当時投稿する習慣すらできていなかったSNSにも力を入れる必要があった。
「最初の1〜2カ月は全然投稿できてませんでした。『やり方がわからない』って言い訳していたんですが。何かのタイミングで自分のプライドみたいなものが消えたんです。撮り方や投稿も、素直に言われたことを全部やってみたら3カ月目にはTikTokでミリオンを達成して。そこから一気にお客さんが増えて、自分でも衝撃でした」
@hide_kageyama_ 髪質改善するならお任せください🎶#髪質改善 #髪質改善ストレート #神戸美容室#神戸美容院 #神戸美容師 ♬ bounce (i just wanna dance) – фрози & joyful
陰山さんのTikTokから
TikTokを起点に、インスタのペルソナ設計にも着手。「美意識の高い層」を明確にターゲティングした。
「悩みに対してピンポイントで訴求する時もあれば、理想の女性像を発信する時もあります。お客さまと話していてよく聞かれる質問からテーマを拾って、“こういう悩みを持つ人を任せてほしい”って、共感が生まれる投稿にしていったらインスタも波に乗っていったかたちです」
陰山さんのInstagramから。
結果、「髪質改善 神戸」などの検索ワードで上位を占め、インスタとTikTokから新規顧客が集まり始める。ミリオン投稿以降、新規は月80〜100名まで増加。ストレート需要が高まる梅雨時には、1日10人以上を連日手がけ、月467万円・総客200名に達した。
「カウンセリングは“答え合わせ”だと思っていて。曖昧な履歴も多いので、まずは手と目で判断して必要な部分だけお客さんに確認します。基本的にはいちど矯正した部分は栄養を入れるだけで、伸びている部分をリタッチすればいいようにしています。カットも武器なのでマンネリを避けるために質感調整や、レイヤー提案も織り交ぜてますね」

「売上目標でいったら次は500万になるんですけど、はじめて100万を超えた時の嬉しさのほうが大きかった気がしていて。それより今は、たとえば伸び悩んでいたスタッフが結果を出して、『ありがとうございました』って言ってくれる瞬間のほうが、よっぽど満足度が高いんです」

陰山さんは自己ベストそのものに固執していない。今は、接客・技術のマニュアル化を進めながら、外部のセミナー講師としても活動している。「安心・安全・高クオリティ」をチーム全体で再現することが、次のテーマだ。
「個人としての目標はもちろんあるけど、今は自分が結果を出すことより、チームの成功体験を増やす方向に意識が向いてます。強い組織づくりに貢献できれば、結果的に喜んでもらえるお客さんの数も増えるはずなので」
成長の歩みを止めることなく高みを目指し続ける、〈ioe〉のふたりに目が離せない。

