有名ブランドサロンでデビュー後、わずか半年でフリーランスに転身。13万人のSNSフォロワーを引っ提げ、予約枠に一度も穴を空けずに突っ走る注目の24歳がいる。
東京・新宿で活動するメンズ特化美容師・伊東 蓮さんは、アシスタント時代からヘアセット動画を投稿し続け、撮り方も編集も独学で積み上げてきた。デビュー半年後のフリーランス初月では月130人・売上173万円。その背景にある選択と、キャリアを動かした“最初の一歩”をたどる。

伊東 蓮さんの転機は、アシスタント1年目に始めたヘアセット動画だった。サロンに入社してまもなくTikTokに投稿をスタート。しばらくして同じ動画をInstagramにも流したところ、数百人だったフォロワーは3カ月で1万人を超えた。しかし最初から発信に強かったわけでも、特別な才能があったわけでもないという。

「学生時代は何も発信してなくて。ただ、メンズ特化で存在感のある美容師になりたい気持ちはずっとあったので、就職したら早く始めようと決めていました。編集も撮り方も分からないから、メンズセットで有名な人の動画を参考にして、YouTubeではSNS仕組み解説をひたすら見て、自分の投稿に落とし込む。その繰り返しです。最初は毎日、営業のあと5時間はかけて編集していて、身体は正直ボロボロでした。でも、やった分だけ数字に出ていたので続けられたんです」

投稿はヘアセット動画をメインに、ファッション・メイク・Vlogを混ぜて発信。見やすさ最優先に、今では30秒のリール制作を2〜3時間で仕上げられるようになった。
やがてSNS経由でサロンに来る人も増え、アシスタントながらスタイリスト顔負けの指名数に。嬉しさと同時に、悔しさも積もっていった。
伊東さんのInstagramより。遊び心のあるリールも人気だ。
「自分を目当てに来てくれても、アシスタントなので最後まで担当できない。それがずっと引っ掛かっていたんです。デビューした数年後、自分がサロンの中でどうなっているかが想像できてしまって。発信の手応えがあった分、もっと違う未来に挑戦したい気持ちがどんどん強くなったんです。それに、自分を目当てに来てくれる人には、マンツーマンできちんと応えたい気持ちも大きかったですね」

デビュー後、半年という早さで伊東さんはフリーランスへ転身した。拠点を大宮から新宿に移し、初月からひとり1枠で売上170万円を超え好調なスタートを切った。学生〜25歳のメンズ顧客を中心に、カットをメインに縮毛矯正やダウンパーマ、ブリーチカラーが同じ割合でオーダーされるという。

「スタイリストデビューした時は特定のスタイルでしか入客できなくて、初月は40万くらいでした。ここに移る時も、もしお客さんが来なかったらって不安はずっとありました。でもその分気合いを入れて挑んだら、ありがたいことにたくさん来てくれて。いま4カ月目(取材当時)ですが、これまで予約枠に穴が空いたことはないです」
SNSや動画でヒントを拾い、ウィッグで試すなど技術への投資は今も続けている。ブリーチや縮毛矯正の施術も多いからこそ、ケアメニューにも強いこだわりがある。

「技術はまだまだ勉強中です。SNSや動画を見ながらウィッグを切ったり、商材もかなり調べています。ブリーチも縮毛矯正も多いのでケアメニューは松竹梅で組んで、施術ごとにシナジーのあるものを提案しています。自分で決められるからこそ調べて、人に聞いて、実際に使って納得いくものだけを使いたいんです」
集客の中心は変わらずSNSだ。TikTokはあくまで認知拡大。予約のほとんどはInstagramからだという。

「やっぱりスタイリングを楽しみに来てくれます。セットの質問も多くて、『動画見てもできない』ってって相談もよくいただきます。僕自身、セット動画を見て学んできた側ですけど、正直“見てできる”は少ないと思っています(笑)。でも、見た上でサロンに来てくれるからこそ、髪質に合わせたコツやテクニックは教えやすいし、そこに価値を感じてくれる人が多いのは嬉しいですね」

SNSの発信が軌道に乗り始めると、「ビジュアルがいいからでしょ」と言われる場面もあった。伊東さん自身、ファッションやメンズ美容には力を入れているが、それ以上に伸びた理由がある。

「仕組みを学んで競合を見て、発信し続けてきた積み重ねが一番大きいと思っています。SNSの伸ばし方も聞かれることも多いんですけど、“これをやれば伸びる”って簡単に言える話じゃないです。結局はまとまっていて、ためになって、保存されて、週末に繰り返し見られる動画かどうか。そのためには編集だけじゃなくて、悩みを拾って伝える力も必要で、最後はそれを続けられるかどうかだと思います」
大切なのは、自分の技術や視点をどう伝えられるかという「中身の質」と「継続力」。ただ消費されるだけじゃない、顧客の役に立つかどうか。その視点でコンテンツを作り続けたいと伊東さんは話す。
「まだスタイリストになって間もないので、まずは美容師としての軸をしっかり作りたいです。そのうえでアパレルやメイク、スキンケアにも広げていけたら面白いなって。いまは来てくれるお客さんとしっかり向き合って実力をつけて、存在感のある美容師になれるよう積み上げていきたいです」

- 執筆者
- 木村 麗音
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