自分を貫く強さが誰かの居場所になる。Xジェンダー美容師・KAHOのあり方

自分を貫く強さが誰かの居場所になる。Xジェンダー美容師・KAHOのあり方

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photo_相原サン

「いろんな特化型サロンがある中で、“ジェンダーレス特化型サロン”というカテゴリをつくり、私たちがその先駆者になりたい」

そう話すのは、原宿・神宮前にあるヘアサロン〈Ooze. HARAJUKU〉(ウーズ・ハラジュク)代表のKAHOさん。LGBTQ+の当事者であり、性別や固定観念に縛られないサロンづくりに取り組んできた。

今年1月には自己最高売上となる320万円を記録し、YouTube登録者数も10万人を突破。パーソナルジム運営やテレビ出演など、活動を広げながら新たなサロンの形を描く、KAHOさんの次世代の視点を聞いた。

KAHO  @kaho_anazawa かほ/1995年生まれ、新潟県出身。国際文化理容美容専門学校 国分寺校を卒業後、原宿〈Hairsalon BREEN Tokyo〉でスタイリストデビュー時にXジェンダーであることをカミングアウト。2023年〈Ooze. HARAJUKU〉をオープン。サロンワークを軸にパーソナルジムの運営、YouTubeやTV出演など活動の幅を広げている。

KAHOさんは学生時代から“かわいい”よりも“かっこいい”、中性的なスタイルが好きだったが、それを生かせる就職先が見つけられなかった。結局は担任の紹介で原宿のサロンへ入社したものの、アシスタント時代はメンズ/レディースで分かれるメニューやマニュアル、見た目の性別で判断した接客に違和感を抱えながら働き続けていた。

「あの時は、同じサロンのスタッフにすら自分がLGBTQ+当事者であることを隠していました。偽りの自分を演じ続ける毎日に疲れてしまって、『カミングアウトして自分らしく働くか、美容師をやめるか』を天秤にかけたんです。でも自分自身にも、美容が好きな気持ちにも嘘はつきたくなくて。スタイリストデビューをきっかけにSNS上でカミングアウトする決心をしました」

その投稿を皮切りに、これまで感じてきたモヤモヤをInstagramで発信。当時フォロワー800人ほどだったにも関わらず、全国から同じ悩みを抱えた人たちが集まり始め、スタイリストデビューから約1年で月間売上300万円を突破。企業案件やメディアからも声がかかるようになり、ヘアケアブランド「パンテーン」が行ったサロンのジェンダーフリー化を進めるプロジェクトでは、サロン用マニュアルの制作に携わり1100以上のサロンが賛同した。

「そのマニュアルをベースにサロンも方針を変えてくれて、『ジェンダーレスサロン』として世間に認知されるようになっていきました。だけど私はあくまで1スタッフであって、すべてを理想どおりにはできないし、仕組みを変えるには時間もかかる。なら独立して自分が納得できる空間をつくった方が、悩みを抱えるもっと多くの人の力になれると思ったんです」

独立へ向け、同じサロンで働いていたLGBTQ+当事者の2人とフリーランスへ転身。1年後には法人化し、2024年に〈Ooze. HARAJUKU〉をオープンした。サロンでは、10〜20代を中心に「誰にも言えない気持ちを聞いてほしい」といったヘア以外の悩みを抱える人も多く訪れるという。

「全員がLGBTQ+の当事者なので、言ってほしくないこと、聞いてほしくないことの感覚が自然と分かり合えているし、お客さまを見た目の性別で判断しない。固定観念や先入観を押しつけず、“ひとりのあなた”としてありたい姿を一緒に探すことを徹底しています」

もっとも忙しくなるのは、今年も最高売上を更新した1月。成人式を終えた新成人がイメチェンをしに駆け込んでくる。サロンワークに向き合う一方で、KAHOさんはインフルエンサーとしての顔も持つ。美容師としてのアカウントとは別でファッションやプライベートも発信し、その姿に励まされる人も少なくない。

KAHOさんのInstagramより。右は顧客のヘアスタイル、左はLGBTQ+イベント「Tokyo Pride」パレードでの一枚。サロンワーク以外の活動も積極的に発信している。

「自分の見た目も生き方も、ただ素直に選んでいるだけなんですけど『勇気をもらった』とか『背中を押された』って言ってくれる方が多いんです。自分たちの活動をコミュニティとして広げたくて、新宿二丁目で交流イベントをやったり、似た価値観や悩みを持つお客さん同士がつながれる場づくりにも取り組んでいます。大切なお客さん同士だからこそ安心できるし、サロンの外にも居心地の良い場所を広げられたらと思っています」

YouTubeはコロナ禍にスタート。登録者数は10万人を突破し、新規予約はYouTubeが主に担っているという。内容はビフォーアフター動画を中心に、出演者は視聴者の応募から決まる。「アセクシャル」「不登校」「解離性同一性障がい」「ドバイ案件」など、背景に事情を抱えた人が集まるのが特徴だ。

サロンメンバーの(左から)AIRIさん、KAHOさん、MOEさんに加え、YouTube編集や経営補佐など裏方を担うマツさんの四人体制で動いている。

「LGBTQ+の方が出てくれることが多くて、まず情報共有がしたいんです。私たち自身も当事者として長く向き合ってきたから、気持ちの奥にあるものに気づけることがある。距離的にサロンには来れない方でも、見た目の変化は手伝えなくても、内面的な変化なら動画を通して寄り添えるんじゃないかと思って、いろんな方に出ていただいています」

「会社を大きくしたいとか最初ぜんぜん思ってなくて、ずっと3人でやってきました。でもここで止まってしまったらもったいないと思って、来年からは新卒も2人加わってサロンとしてステップアップしていきます。いろんな場所で『原動力になってる』と言ってもらえるなら、それはそのまま自分たちの原動力にもなるし、もっとその声に答えたいっていう使命感もあります」

さらにヘアにとどまらないトータルビューティも見据えている。新宿で運営しているパーソナルジム「TREACEND(トレセンド)」は、その延長線上だ。

「ジムは、お客さんとの会話と自分の経験から自然に出てきたアイデアなんです。ヘアをかっこよくしても『骨格が女性的に見える』と悩む方はすごく多い。そんな時インスタで、筋肉を鍛えて理想の見え方に近づけるトレーナーさんを見つけて、実際に会って意気投合してスタートしました。ヘアと身体の両方から“なりたい自分”に寄り添えるのは、うちならではだと思います」

(左から)「TREACEND」のトレーナーを務めるAIKAさんとAKIRAさん。

今後、アパレルやコスメへの挑戦も考えているという。最後にその先に描くビジョンを聞いた。

「私たちは『性差と向き合うすべての人たちの未来を拡張する』というミッションを掲げています。LGBTQ+当事者だからどうとかじゃなくて、今はストレートの女の子もファッションの一部としてメンズライクを楽しむ時代。美容もファッションも、『どうありたいか』で選べるようにしたいんです。お客さんだけじゃなく、働くスタッフも、自分の好きや個性を大事にしながら輝ける場所にしたいですね」

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執筆者
LOMARM

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