テリが太陽の塔で見つけた“らしさ”の根っこ

テリが太陽の塔で見つけた“らしさ”の根っこ

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photo_永野逸朗
special thanks_万博記念公園 太陽の塔

誰もが知ってる「太陽の塔」。1970年大阪万博のテーマ館の一部として建てられた塔で、大阪の風景のひとつでもある。でも当時の大阪万博を知らない世代にとっては、見たことはあっても中に入ったことのある人は少ないんじゃないだろうか。

なぜなら大阪万博閉幕後、その内部は原則非公開で閉ざされていたからだ。再生事業を経て2018年に48年ぶりに内部が一般公開され、芸術家・岡本太郎が描いた世界がよみがえった。半世紀を経た今も、その存在は多くの人を惹きつけている。

そんな「太陽の塔」に今回一緒に行ったのは、休日は美術館やギャラリーを巡り、昨年は世界各地を旅して「見て、体感して、学ぶ」をモットーに創作を続けるテリさん。コンテストやフォトクリエイションでも活躍する彼女と、再び万博を迎えた2025年の大阪で半世紀前の原点を見に行った。

テリ
1999年生まれ。奈良県出身。関西美容専門学校を卒業後〈CARTA〉(カータ)に入社 し史上最速で最高売上を更新する。サロンワークの傍らコンテスト受賞を重ね、パリコレのヘアチームにも参加。主宰する「テリ会」では美容師・学生を対象に作品撮りをディレクションし表現の幅を広げている。主な受賞歴にJHAサロンチームオブザイヤー部門ノミネート、KHAデザイナーズ賞

「久しぶりに来ました、はじめて見たとき『大きな鳥みたい!』って生き物みたいに感じたの覚えてます。4〜5年前くらいに、ロケハンで近くを通ったんです」

広くみどり豊かな万博記念公園に、異質な存在感でそびえ立つ「太陽の塔」。高さ約70メートル、半世紀以上を経た今もなお異質な存在感のある塔が、翼のように両腕を広げ迎え入れてくれた。その正面からは2つの顔が見えるが、「太陽の塔」には全部で4つの顔が存在する。

外観から確認できる顔は3つ。頭部でメラメラと輝く「黄金の顔」は〈未来〉、おなか辺りに浮かび上がる「太陽の顔」は〈現在〉、塔の背面にある「黒い太陽」は〈過去〉をそれぞれ表している。

テリさんにとっても、内部に足を踏み入れるのは今回が初めて。いよいよ、その胎内へと進んでいく。

「地底の太陽」は、大阪万博の閉幕後に行方不明となり現在も見つかっていないため、復元したものが展示されている。

「太陽の塔」は地下から登っていく。受付カウンターを通り、岡本太郎が描いたデッサンのスペースを抜けて目の当たりにするのが第4の顔「地底の太陽」があるエリア。その横には世界各国の仮面や神像が並び、プロジェクトマッピングや照明が呪術的な空間の表情を刻一刻と変えていく。

「こんなに大きいのに、行方がわからなくなることあるんですね…。入口近くにあった『太陽の塔』のデッサンも見入っちゃいました。私も展示や美術館に行った日に、感じたこととかイメージを文字じゃなくて絵に起こすんですけど、大きな目のような頭部になぜか親近感を覚えました」

通路を抜けると、外観からは想像できないほどの真っ赤な空間に、天井へ向かって伸びる高さ約41メートルの「生命の樹」が現れる。その枝や幹には単細胞生物からほ乳類へ続く183体の生物模型が取り付けられ、生命の進化の過程をたどる。「まずは根元を見よ」と言わんばかりに、未来へほとばしる生命のエネルギーを表現している。

「本当に生き物の胎内なんですね…樹というよりも血管みたい。私の好きなビビッドな色使いだし、シンプルに圧倒される。当時見た人はどれほどの衝撃だったんだろう」

塔内部にある、演出の考え方を一枚にまとめたもの。大阪万博当時は現在より100体以上も多い292体の生物模型があった。

「こういう“原始的”というか根源的なものがいちばん好き」そうテリさんが話す、“生命の樹”の根本にあたるゾーン。ここは原始の海を象徴するエリアで、単細胞生物やクラゲのような原生類、三葉虫などまだ形をもちはじめたばかり生命たちが並ぶ。

「岡本太郎さんは『芸術は爆発だ』のイメージが強かったんですけど、空間そのものというか色とか構成のバランスはすごく丁寧に組み立てられていて、さっきも言ったんですが本当にキレイです。私があまり配色を考えたりしないタイプなんですが、基本的に1~2色に留めることができなくていろんな色を使ってしまうのが癖なんです。描く時なんかはほぼ虹色になりますね(笑)。だからこそ、血管の色とか個々の生物模型の配色とか、どうしてこういう色にしたのか考えてました」

気に入ったのはイカに似た「キルトセラス デクリオ」と、たんぽぽの綿毛のような「三葉虫」。三葉虫のいたカンブリア紀に生物は爆発的に多様化し、進化を遂げたとされる。

ダイナミックな空間に言葉を失いながらも、最初の階段を登りながらスロープを回っていくと、原始の海から生まれた魚類や両生類が上に向かって進化していく姿が現れた。生命の形や色味も一気にリアルになっていく。

「この頃の魚ってすごく硬そうですね…。あと生き物のサイズが大きくなったからか、さっきまでカラフルだったのに無彩色になってますね。階段登ってみて気づいたんですが、内壁も“ひだ”みたいになっていて内臓にいるみたいです」

“硬そうな魚”のドレパナスピスやボスリオレピスは板皮類(ばんぴるい)と呼ばれる古代魚で、実際に硬い装甲で覆われていたとされる。

さらに階段をのぼり塔の中腹に差しかかると、空間のスケール感がぐっと大きくなる。見上げた先には、細い枝に力強く立つ恐竜たち。背中から帆を伸ばしたエダフォサウルスが、威嚇するような鋭い目でこちらを見下ろしていた。原始のころのやわらかい形とは違って、どれも力強いフォルム。ライトの光に照らされるその姿は、生き抜く姿勢そのものが形になったみたいだ。

「枝が折れちゃいそうなスケール感!最初に見た小さい子たちと比べると、進化の過程でだいぶ怖くなりましたね(笑)。それにしても、ここにだけ骨だけの生き物が吊るされているのはなんでやろ?横にいる恐竜に食べられて、弱肉強食を表してるのかな」

「生命の樹」で唯一の骨格模型。隣で大きく口を開けたトラコドンは草食恐竜のため、進化の過程にある“構造美”を示しているのかもしれない。

階段を登り切ると、毛に覆われた動物たちが迎えてくれた。ネアンデルタール人やクロマニョン人など、人類の祖先に近い存在たちも小さく存在している。戦うように生きていた恐竜の時代を抜けて、暮らすように生きる生命へと少しずつ今に近づいてくるのがわかる。そのなかで、ひときわ目を引くのがゴリラの模型だ。かつては機械仕掛けで動いていたというが長い年月のあいだに頭部が落ちてしまい、剥き出しのまま残されている。

「そのまま残ってるのいいですね。完全じゃないのに生きてる感じがするというか、ほっといたら勝手に進化してたみたいな。クリエイションも上手くまとめようとするとどこか嘘っぽくなっちゃう時があって、完璧に整ってるものより壊れかけとか途中のままとか、見てる人の想像が入るスペースって大事ですよね。このゴリラもただ頭がないけど口元から表情は想像できたり、欠けてるけど生きている感じがします」

ほ乳類時代にあるマンモスは、生物模型のなかでいちばん大きく感じる。毛並みの荒れが生きた時間を物語っているようで、やけにリアルだ。

展示空間の最上階「太陽の塔」の両腕をつなぐ回廊まで上がってきた。濃い赤に包まれた空間を抜けると、視界がふっと軽くなる。すぐ頭上には幾重ものカーブを描く天井、その向こうには青空。生命の樹がそこに向かってまだ伸び続けている。

「なんか違う世界に行けそうじゃないですか?私の好きなアニメとかでもあるんですけど、こうやってパラレルワールドや別世界に吸い込まれていくみたいな。そんな錯覚になります」

回廊からは両腕の内部をのぞくことができる。左腕には非常階段があり、右腕は大阪万博当時に空中展示の大屋根へとつながっていてエスカレーターでアクセスできた。今は大屋根がなく内部に入ることができないが、刻々と色を変える照明と相まって外からでもその迫力を体感できる。

右腕の内部。整然とした構造がSF映画のワンシーンのようで造形の力を感じる。

「この空間もすごい好きです。腕を支えるための骨組みっぽいですけど、普通にアートですよね。天井もそうだったけど吸い込まれそうな感じがします。『生命の樹』から有機的な形を見続けてきたからか、こういう無機質な感じが逆に整いすぎた細胞みたいに見えてくるんです」

その日「太陽の塔」で受けた衝撃をもとに、テリさんがスケッチを描いてくれた。

「太陽の塔」を見学した夜に描いたラフスケッチ。大きな目と、太陽コロナのようなあしらいが印象的。

「なんで描いてるって言われたら難しんですけど、私の日記みたいなもので。感じたもの見たものを自分の解釈で色とかタッチに置き換えて短い時間で描いてみるんです。それこそ『太陽の塔』は最初に見たときから生き物みたいに感じていて、『腕はどう動くんだろう』とか4つの顔にあるそれぞれの目が印象的で、それを大きく描きました」

「太陽の塔」ミュージアムショップで購入したポストカードセットを、自宅のドアにコラージュのように貼って飾った。好きなものや家族の写真、雑誌の切り抜きが日常に溶け込んでいる。

最後に、「太陽の塔」を訪れた感想を聞いた。

「一番印象に残ったのは、原始の海から見上げた“生命の樹”。今は万博もあって、どうしても“未来”に意識が向きがちだけど、その前にある“根っこ”の部分に触れられた気がしたんです。コンテストで結果を出したいとか、いい作品をつくりたいとか、そういう自分の理由や背景を重ねて見てました。

それに、「太陽の塔」って、すごく自由なのにちゃんと伝わってくるのが不思議なんです。形も色もまったく固定観念にとらわれてないのに、知らない私にすらまっすぐメッセージが届くというか。私も自分の作品を100%見た人にわかってもらうのは難しいけど、『私らしい』では終わらせたくなくて。モデルさんと話しながら作る過程とか、いまにも動き出しそうな感じとか、強い作風でもモデルさんの個性が残るものにしたい。ぶっ飛んでるだけじゃない、そう思ってもらえるものをつくりたいって改めて思いました。近くにある『EXPO’70パビリオン」でも作品展示や万博の資料があるみたいなので、近いうちにまた来ようと思います」

太陽の塔 (万博記念公園内)
場所:大阪府吹田市千里万博公園
時間:10:00~17:00(最終受付 16:30)
休み:水曜(万博記念公園に準ずる)
料金:大人(720円)※別途、公園入園料大人(260円)が必要
電話:0570-01-1970
木村 麗音
執筆者
木村 麗音

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