“見えない境界を彩る”、ロジックで導くデザインカラー新境地〈Null〉AYATO

“見えない境界を彩る”、ロジックで導くデザインカラー新境地〈Null〉AYATO

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2000年度生まれの美容師たちによるクリエイション「00line CREATORS」#2
photo_佐野一樹(chiyoda-studio)

いつの時代も、新しいムーブメントを生み出すのは“若い力”だ。いま、注目すべきは2000年度生まれの美容師たち。同世代で頭角を現す3人の美容師が、今の空気をヘアに落とし込む。2人目は〈Null〉のAYATOさん。若手クリエイター集団を立ち上げたひとりで、教育や技術の体系化に取り組む一方、SNS発信やブランディングにも長けた存在だ。そんな彼のクリエイションと背景に迫る。

AYATO(あやと)/2000年生まれ、三重県出身。旭美容専門学校を卒業後、都内2店舗を経て「Null(ヌル)」に参加。デザインカラーの理論化を得意とし、サロンワークを中心にセミナー講師としても活躍の場を広げている。

「Sylph(シルフ)」。この世には存在しないかもしれないけれど、確かにそこにいる。そんな幻想的な存在を、ヘアデザインとして可視化。

ウルフカットをベースに、ディスコネクションを強調したレイヤーを施し、浮遊感のあるシルエットに。根元にはナチュラルなブラウンを残しつつ、毛先に向かうほどにターコイズやモスグリーンが入り混じる。風にたなびく葉や、光を受けて変わる水面のような、深い自然が交差する質感を目指した。

見えないけれど、確かに存在するもの。そういう曖昧な境界を、カットとカラーのコントラストで表現しました。緑に囲まれた情景を思わせる色彩の中に、あえてダークなトーンを残し、異質な空気感をつくっています。(AYATO)

🅀 今回のデザインのこだわりを教えてください

ウルフやレイヤースタイルを単なるトレンドとして消化するのではなく、もっと抽象的な存在に落とし込みました。根元の緑や土のニュアンスから、芽吹くように色彩が広がる構成で、全体の異質さと融合するようなイメージです。

カラーは、アルカリカラーと塩基性カラーをセクションごとに分け、濃いグリーンと淡いターコイズの発色を使い分けています。仕上がるとそれらが自然に混ざり合い、光の入り方や動きによって異なる表情を見せる。単色ではなく、深みのあるグラデーションが生まれるよう計算しています。

🅀 AYATOさんはサロンワークでどういったデザインが人気ですか?

ルーツカラーが圧倒的に多いですね。新規のお客さまは8割がオーダーしてくれます。“もともとブリーチを諦めていた方”でも取り入れやすく、個性を出しつつもライフスタイルに馴染みやすいのが魅力。SNSで発信し続けていることもあって、ずっと人気が続いています。

インスタグラムの投稿

🅀 AYATOさんの強みを教えてください

デザインカラーを理論化していることですね。Nullはデザインカラーを軸にしていて、その教育を僕と代表のフウガがメインで考えています。

サスーンアカデミーでカット理論を学んだ経験から、「それをカラーにも応用できるんじゃ?」と思って、展開図を描きながら整理していきました。感覚だけに頼ると、個人のセンスに依存しがちだけど、理論を言語化すれば再現性が上がるし、お客さまへの提案や教育の精度も高まるんです。

自分が目立つよりも、技術を共有して、組織としてもっと強くなること。誰かのきっかけになれることを意識しています。

BOBマガジンでも“スラッシュカラー”を解説する連載を担当(BOB 2024年12月号『クレームブック』掲載)

🅀 最後に、今の目標を教えてください。

デザインカラーの市場をもっと広げていきたいですね。その第一人者になりたい。これまで“感覚”で語られることが多かったデザインを、理論化することで誰もが扱える技術に落とし込んできました。でも、感覚でしか生まれないデザインがあるのも事実。そのバランスどう取り入れていくかが、これからの課題でもあります。

だからこそ、ロジックに基づいたデザインと感覚に全振りしたデザイン、どちらも追求していきたい。そこからまた新しい発見が生まれて、次のデザインに繋がると思うので。そのためには、今できることをとにかく積み重ねていくしかない。美容師は結局、お客さんが主役の仕事だから、自分が目立つより、まずはいいデザインを提供し続けることが大事だと思っています。

木村 麗音
執筆者
木村 麗音

日本美容専門学校を卒業後、都内ヘアサロンを経てキャリア転換。少年ジャンプ編集部で3年編集アシスタントを務める。その後、髪書房に入社しウェブメディア「ボブログ」の編集を担当。

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