“私にしか作れない質感”を追い求める。韓国レイヤーの第一人者・キヨモモ

“私にしか作れない質感”を追い求める。韓国レイヤーの第一人者・キヨモモ

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「レイヤー」「デザインカラー」「白髪ぼかし」etc…
いまや定番となった技術やスタイルも、その可能性に挑み続け、象徴的な存在となった女性たちがいる。

何を考え、どう選び、どんな未来を描いているのか?テクニック、マインド、これからの話まで、彼女たちの歩みと視点を深掘りする連載がスタート。

photo_橋本美花

韓国ヘアは、もはや“ブーム”ではなく“スタンダード”に移行した。ヨシンモリから始まり、ここ最近はレイヤーも軽やかに進化中。韓国風という枠組みの中で、新たなトレンドが生まれている。そんな変化の最前線にいるのが、“キヨモモ”こと清上桃華さんだ。

彼女は名門サロンで技術を磨き、フリーランスに転身。韓国レイヤーと発信力を武器に、一気にトップスタイリストへと駆け上がった。現在は〈COTY〉のクリエイティブディレクターとして、サロンワークを軸にセミナーや雑誌など幅広く活躍する。

けれど、ここまでの道のりは決して偶然じゃない。「支持されるスタイル」と「自分の理想」、そのバランスを突き詰めながら、唯一無二のデザインを研ぎ澄ませてきた結果だ。

これまでの歩みと、これからの話を聞いてきた。

清上 桃華(きよかみ ももか)/1999年生まれ、広島県出身。広島美容専門学校卒業後、都内有名店でジュニアスタイリストデビュー。フリーランスに転身し、短期間で予約が殺到する人気スタイリストに。2023年に〈COTY〉(コティ)のオープニングに参加しクリエイティブディレクターとして活躍中。

駆け上がったフリーランス時代
始まりは「知ってもらうこと」

── キヨモモさんのキャリアについて、1番のターニングポイントを教えてください

2年半くらい前、フリーランスになった直後ですね。スタイリストデビューして間もなく、顧客もほぼゼロ。あの頃は、とにかく知ってもらうことが最優先でした。

休みなしで営業して、モデルを呼んで、合間に練習とSNS投稿。1日3回の更新も、自分の存在を届けるためのルールみたいなものでした。

── ハードな毎日だったのもありますが、そこから人気を確立するのも早かったと思います。最短で結果を出せた理由はありますか?

「どう発信すれば届くのか」を試行錯誤しながら発信し続けたからだと思います。技術があっても、それを知ってもらわないと始まらない。だから、どうすればより多くの人の目に留まり、興味を持ってもらえるかを徹底的に研究しました。

SNSの反響を分析したり、マーケティングの本を読み漁ったり、詳しい知人にも聞いたり。いろんな要素を試していくうちに、どんな投稿が人の心を掴みやすいのか、分かるようになってきたんです。

「バズる」ではない、
「伝える」ためのロジック

── 最初に手応えを感じたのは?

「ヨシンモリ」の毛流れを見せたバックショットですね。デビュー当時のトレンドだったのと、私がもともと韓国のヘアスタイルやビジュアルが好きだったので、強みとして打ち出していたタイミングでした。

── トレンドヘアは競合も多い中、なぜキヨモモさんのヨシンモリは伸びたのでしょうか

韓国のインスタやRED(中国版インスタ)を見て、発信の仕方を取り入れたからだと思います。日本の投稿と見比べた時に、アプローチの違いを感じていたんです。

日本の美容師さんの投稿は、技術的なレベルやデザイン性が高いものが多い。たいして韓国で有名な美容師さんの投稿は「絵としての完成度」に振り切ったものが多く、“何がウリか明確”という印象がありました。

当時、投稿していたバックショット

── 「絵としての完成度」とは?

毛流れやシルエット、質感まで緻密に計算していて、一枚の写真としてパッと見た瞬間に「可愛い!」と思わせる力があるんです。

日本では、どちらかというとリアルなサロンワークの延長線上にあるものが多くて、SNSで目を惹く可愛さとは少し違うベクトルにあると感じていました。技術のクオリティが高くても、それがSNSでも存在感のあるビジュアルかどうかは別の話。韓国はそこを、目に留まるビジュアルとして振り切っている分、発信力が高いんだと思います。

── なるほど。その違いを意識して、韓国のスタイルを取り入れたんですね。でもここ1年以上、バックショットを発信していないのはなぜ?

もともとフロントの写真で勝負したかったんです。でも、知名度も信頼もない状態でいきなり「これが私のスタイルです!」と打ち出しても、お客さまに響かない。だから最初は伸びやすいバックショットをフックにして、少しずつ自分のスタイルへとシフトしました。ただ、ベースにあるのは“伝えること”。代表の小山内さんが「客観視が大事」とよく言うんですけど、その視点を意識して発信しています。

質感こそが、差別化の鍵
“私にしか作れない”スタイル

── 韓国レイヤーにおいて、最もこだわっているポイントは?

”私にしか作れない質感”を追求しています。シルエットや巻き方はある程度の技術があれば再現できるけど、質感だけは簡単には真似できない。

たとえば、レイヤーは毛量を削る分、髪がパサつきやすい。でも、オイルをつけなくてもまとまるツヤっぽさ、巻かなくてもキマる質感があれば、シンプルな動きでも洗練されたスタイルになります。デザインだけじゃなく、質感の完成度がスタイルの良し悪しを決めると思っています。

── その質感を生み出すために、最も重要なのは?

カットです。2年以上も前ですが、韓国のレイヤーを見ていて「何かが違う」と感じ、チョップカットやスライドカットを練習していて。毛先の軽さや毛流れの細かい動きがぜんぜん違うことに気づいたんです。

その過程で、ヨシンモリのように毛流れを見せるスタイルから、ラフにワンカールで仕上げたレイヤースタイルにつながっていきました。当時、日本ではまだこのスタイルをやっている人がほとんどいなかったけど、韓国やREDにはすでにいた。日本には全然いなかったし、可愛いかもと思ってお客さまに提案してみたんです。

ザクザクしてて可愛い!と好評で、まだ使われていなかった #ざくざくレイヤー というハッシュタグをつけて発信しました。

2024年の投稿(クリックで遷移)

── 最近は #ざくざくレイヤー のようなスタイルも非常に増えましたね

ワンカールはシンプルで再現性が高く、お客さまも取り入れやすいのが特徴です。けれど、簡単に真似できる分、周りの美容師さんも取り入れて一般化していきやすい。一方で、自分にしかできない巻き(=他の美容師が真似できない巻きのデザイン)をやろうとすると、再現は難しくなります。

だから私が今打ち出している「ハッシュカット」はラフに巻いても決まる質感で差別化していて、完璧には真似されません。バランス感を大切に、誰にもで真似できない「唯一無二」な質感を追求しています。

日本のトレンド、本場のトレンド

── キヨモモさんから見て、今、韓国で最先端のスタイルはどんな特徴がありますか?

韓国のレイヤーは、どんどん「細さ」と「軽さ」にシフトしています。少し前まではヨシンモリのような重めのレイヤーが主流でしたが、最近は毛先がかなり細い「ハッシュカット」が増えています。

2024年の投稿(クリックで遷移)

この投稿よりもっと細くて、ウルフに近いようなカットや、顔周りのレイヤーをイヤートゥまで入れるスタイルが多いです。でも、ロングレングスで全体の印象もあくまでフェミニン。強すぎないんです。

── 日本の韓国レイヤーとの違いは?

日本のレイヤーはボリューム感が残っているのが特徴です。顔周りのレイヤーがあごラインからしっかり入るようになってきましたが、バックのウェイトはそこまで高くなっていない。まだ韓国ほど振り切らず、「動きはあるけど重さも適度に残す」バランスが好まれていますね。

── “韓国系”がある日本は韓国を見ていると思いますが、韓国はどこを見ているんですか?

彼らは国内のトレンドだけを追っているわけではなく、パリやニューヨークのファッションウィーク、インフルエンサーの動向までリサーチしています。そこで生まれたスタイルがまず韓国に入り、トレンドとして定着。その後、日本へと波及していく流れです。

かといって、そのトレンドを日本にすぐ持ってきても共感されにくい。アメリカのモデルがやっているのと韓国のK-POPアイドルやインフルエンサーがやっているのとでは、お客さまもイメージのしやすさが違います。だから私も、アメリカのトレンドは把握しておいて“韓国やワンホンで落とし込まれ、浸透したタイミング”を見計らって日本で打ち出しています。

── 国を跨いだイノベーター理論のようですね。日本に落とし込む際のポイントは?

日本では、韓国のトレンドをもう少しマイルドにした形で広がる傾向があります。最新スタイルをお客さまに見せても「可愛いけど、ここまではちょっと…」という反応がほとんど。でも、同じテイストを少し柔らかく、日本人の髪質やライフスタイルに馴染むようにアレンジすると、受け入れられやすくなります。

特にレイヤーは、削りすぎると「思ってたより軽くなりすぎた」と不安に感じる人も多いので、最初は控えめな提案が必要。けれど、何度か通ってヘアの変化に慣れると、もっと攻めてみたいというリクエストも増えてきます。

── 次に日本で流行るレイヤースタイルは?

レイヤーは今よりもう少し軽さを増していくと思います。ただ、毛先を細くしパーマでやわらかい質感を作ることが前提な韓国に対し、日本はコテでセットする文化が根強い。向こうほど細く軽いスタイルにはなりにくいんじゃないかな。

現在、発信しているスタイル(クリックで遷移)

ただ、レイヤーのトレンドは確実に進化していて、顔周りの切り込んだレイヤーはすでに一般化しつつあります。バックのウェイトを少し上げ、全体のシルエットをひし形に近づけたスタイルが主流になってくるはず。まとまりを保ちつつも程よく抜け感のあるバランスが、日本らしいレイヤーとして定着していくと思います。

理論だけじゃつくれない、“可愛い”の本質

── キヨモモさんご自身のことを深掘りさせてください。美容師としての自分を支える習慣は?

とにかく、インプットを止めないことです。お風呂に入ってるときも、電車に乗ってるときも、無意識にトレンドや可愛いものを探していて、もはや趣味なのかもしれません(笑)ファッション、メイク、コスメ、ビジュアルまで、カテゴリ別にアルバムにまとめてストックしています。技術を磨くのももちろんですけど、自分のデザインが“可愛いか可愛くないか”常に問い続けています。

── “可愛い”を問い続ける理由は?

私は基本的に、考え方が理論寄りなんです。カットの構造を分析したり、ヘアのバランスを計算するのは得意。でも、ヘアって結局“可愛いか可愛くないか”、共感できるかどうかがすべてじゃないですか。

効率的に考えるのは好きだし、技術の習得やSNSでも最短で結果が出る方法を考えるタイプ。でも、共感されるデザインはロジックだけでは生まれない。「理論的に正しいからこうしましょう」と押し付けるのではなく、あくまで最終的に“どう見えるか”を軸にしてデザインを組み立てたい。お客さまが鏡を見た瞬間に『可愛い!』と思えるかどうかが、一番大事なんです。

目指すもの、大切にしていること

── 技術・理論は大切にしつつ、最終的な判断は感覚や感性なんですね。現在の目標を教えてください。

もっと広い世間から認められる、 toC の存在感も増していきたいです。一般誌や幅広いメディアにも挑戦して、メイクやトータルビューティーの領域にも踏み込んで、自分の世界観をより多角的に発信していくつもりです。

それと同時に、お客さまとの関係性をさらに深めて「キヨモモのセンスが好き、この人に切ってもらいたい」と思ってくれる人を、もっと増やしたいですね。美容師は“技術を提供する仕事”だけど、それ以上に、お客さまと一緒に“可愛い”をつくる仕事だと思っています。

ただヘアが上手い人に予約して施術してもらって終わり、じゃなくて「ここに来たらモチベーションが上がる」と思ってもらえるような存在になりたい。COTYもそういう場所を目指しています。

── 最後に、美容師として最も大切にしていることは?

“謙虚に、誠実に、感謝の気持ちを忘れないこと”。これは小山内さんの言葉なんですけど、親からも定期的に「感謝を忘れるなよ」ってLINEがくるんです(笑)。そもそもが不安症なので天狗になることもないんですけど、お客さまに選んでもらって初めて成り立つ仕事なので、“当たり前”になってはいけないなと。

どんなに忙しくても、驕らず、ひとりひとりのお客さまに向き合うことを忘れないようにしたいです。

セルフノート

INTJ(建築家)と診断される人は「戦略家」としての冷静さと分析力が光るタイプ。

木村 麗音
執筆者
木村 麗音

日本美容専門学校を卒業後、都内ヘアサロンを経てキャリア転換。少年ジャンプ編集部で3年編集アシスタントを務める。その後、髪書房に入社しウェブメディア「ボブログ」の編集を担当。

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