愛犬と美意識を形に。ドッグランのある〈Bullson〉が生む、新しい“髪を切る時間”

愛犬と美意識を形に。ドッグランのある〈Bullson〉が生む、新しい“髪を切る時間”

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特集:気になるサロン

photo:近藤沙菜

“特化型”とは何だろう。メニューやデザインを超えて、もっと違う形で心に響くものがあるのではないか。いま必要なのは、新しい体験価値を創造する視点。東京・三田にあるヘアサロン〈Bullson(ブルソン)〉は、その鍵を握る存在だ。

ここでは、ヘアサロンとドッグラン、ペットアパレルショップが融合し、訪れる人に唯一無二の体験を提供している。サロンのすぐ隣には自然光が差し込む半屋外のドッグランが広がり、愛犬が遊ぶ姿を見守りながら施術を受けられる。店内には、主にフレンチブルドック向けのアイテムが並ぶショップも。空間全体が「犬と人」のために丁寧に作り込まれ、「髪を切る」という行為に留まらない心地よい時間が流れている。

「お客さまに髪を整える以上の時間を提供したい」。そう語るのはオーナーのYUJIROさん。「犬と人の絆」というコンセプトを軸に、これまでのヘアサロンの枠を超えた新しい挑戦を続けている。店内のデザイン、誕生の背景、そして〈Bullson〉が生み出す新しい顧客体験について話を聞いた。

PROFILE

YUJIRO/1990年生まれ、東京都出身、日本美容専門学校卒業。新卒から13年間、東京の「meuvle/SAN」に在籍。2024年3月に独立し、〈Bullson〉をオープン。「犬と人の絆」をテーマに、ヘアサロンにドッグランとペットアパレルショップを併設した新しい業態に挑戦している。

ヨーダ/〈Bullson〉の看板犬。2023年生まれのフレンチブルドッグ。おっとりして人懐っこい。名前はあの“ヨーダ”から。


「犬と人の絆」を形にしたサロン

──看板犬のヨーダちゃん。とっても可愛いです。サロンのコンセプトである「犬と人の絆」について教えてください。

ありがとうざいます。〈Bullson〉という店名自体が、ブルドック(Bulldog)とパーソン(Person)を掛け合わせたものなんです。名前に込めたのは、犬と人が繋がり、暮らしに彩りを加えるという願い。犬は散歩中に飼い主同士を自然と引き合わせてくれる存在ですよね。そんな日常の温かい瞬間を、サロンでも感じられる場所にしたいと思ったのがきっかけです。

──〈Bullson〉の特徴のひとつ、ドッグランはどのようにして作ることになったのでしょう

実は最初からドッグランを計画していたわけではないんです。当初は「犬と共に過ごせるヘアサロン」を目指して、ペットOKの物件を探していました。でもそういったテナントは非常に少なくて、なかなか理想の場所に出会えなかったんです。

そんな中、犬好きの知人から「ペットフレンドリーなビルがある」と紹介してもらいました。このビルのオーナーさんも大の犬好きで、「犬と人が共に過ごせる事業を応援したい」と心強い言葉をくださったんです。半屋外のスペースがあるのを知り、「ここならドッグランができる」とアイデアが浮かびましたね。

──物件探しの高いハードルも、“犬好き”であることが出会いを繋いでくれたんですね。ショップを併設した理由についても教えてください。

ショップは妻が手がけていて、〈Bullson〉の原点ともいえる存在です。彼女がフレンチブルドッグとの暮らしから得た経験をもとに、肌が弱い犬種に合う素材選びや、動きやすいシルエットを追求しています。ただのペット用品に留まらず、飼い主と愛犬が共に楽しめるデザインを取り入れることで、ライフスタイル全体を豊かにする提案を形にしています。

ショップ部分ではアパレルや雑貨のほか、犬用のシャンプーやオリジナルのおやつなども揃える。

「分ける」と「繋ぐ」を両立させた空間デザイン

──ヘアサロン・ドッグラン・ペットアパレルが共存する空間づくりで意識したことはありますか?

保健所の規定をクリアするために、ヘアサロンエリアとドッグランエリアを物理的に分けつつ、飼い主が愛犬の様子を見守れるようにガラス張りを採用しました。また、ドッグランやショップだけを利用される方も多いので、買い物スペースと施術スペースが視線で交差しないようにゾーニングを工夫しました。全体として開放感を保ちながら、それぞれが安心して利用できるプライベートな空間も大切にしています。

ヨーダが紡ぐ、絆と新しい顧客体験

──顧客の反応はいかがですか?

ヘアサロンに通う際、愛犬を預けたり留守番をさせたりするのが負担だったり罪悪感を感じている方が多いので、「ここなら一緒にいられる」と喜ばれます。施術中に愛犬をドッグランで遊ばせて、安心して見守れる環境は特別な価値になっていますね。

セット面は4つあり、いずれも壁一面のガラスが愛犬と飼い主の視線を繋ぐ。

──犬を飼っていない方も訪れますか?

もちろん。実家で犬を飼っていたけれど今は飼えない方や、犬が好きだけどまだ飼ったことがない方もいらっしゃいます。ただ、そういう方も「ヨーダがいることでリラックスできる」と言ってくれます。“犬好きが癒やされる場所”として北海道や沖縄、海外から訪れる方もいて、その広がりを感じるのはとても嬉しいですね。

──ヨーダちゃんが新しい繋がりを生むこともあるそうですね

そうなんです。SNSでヨーダの誕生日を投稿した際、「うちの子と誕生日が同じなので兄弟かもしれません」と連絡をいただいたことがありました。その後、実際にサロンで再会できて……ヨーダの兄弟が遊びに来てくれたんです。

ほかにもお客さま同士がSNSを通じて繋がったり、ドッグランでの偶然の出会いをきっかけに友人になったりすることもあります。ヨーダが看板犬としてここにいるからこそ生まれる繋がりであって、彼女の存在がこの場所のコンセプトを自然に体現してくれているんだと思います。

〈Bullson〉が描く未来のビジョン

──〈Bullson〉として、今後挑戦したいことや目指す未来について教えてください。

「犬と人の絆」をもっと多くの方に体験してもらいたいですね。そのために、ドッグランやアパレルを活かしたイベントや、新しいプロダクトの開発を進めています。ただ、現状はスタイリストは私ひとりのみで、新規のお客さまをお断りしなければならない場面も増えてきました。だからこそ、今は〈Bullson〉のコンセプトに共感し、一緒に新しい挑戦をしてくれる仲間を探している最中です。美容師としての新しい可能性を、一緒に追求していけたらうれしいです。

──愛犬と共に働けるなんて、愛犬家の美容師にとってはたまらない環境ですよね。最後に、コンセプトに特化すること、その魅力について教えてください

「髪を切る」という枠にとどまらない、美容師だからこそ提供できる空間や体験を考えることは、きっとお客さまの心に響くものになるはずです。また、「好きなこと」と「仕事」をどう繋げるかで、自分たちの働き方も変わると思います。

もし同じように新しい挑戦を考えている方がいれば、「自分が本当に好きなもの」を軸に発想してみると、新しいサロンの形が見えてくると思います。

〈Bullson〉は「犬と人の絆」というコンセプトに特化し、“髪を切る時間”に新たな価値をもたらしている。それはここで生まれる犬と人の関係性とともに、これからも広がり続けていくはずだ。

ボブログ編集部
執筆者
ボブログ編集部

成長し続ける美容師のための髪書房ウェブメディア『ボブログ』。これまでにないスピードで変革する時代に必要な情報【パラダイムシフトの芽】をいち早く見つけ、掘り下げ、新しい常識を提案します。

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