“推される”美容師は何が違う?「シェノンチップ」でNo.1のTAIGAに聞く

“推される”美容師は何が違う?「シェノンチップ」でNo.1のTAIGAに聞く

211

photo:安田有里

ヘアサロン・エステなどを関西に16店舗、東京に2店舗を展開する「シェノン(CHAINON)エンターテインメント」が今年、独自の新制度「推し活プロジェクト」を導入した。顧客が「推しの美容師」に100円単位の「シェノンチップ」を贈るという取り組みは、顧客との絆を可視化する新しい試みとして注目を集めている。

そのなかで、現在トップの座を手にしているのが「ザ シェノン アオヤマ(THE CHAINON AOYAMA)」のTAIGAさんだ。8月からの短期間で驚異的なチップ枚数を記録した彼が「推される理由」とは何か。新しい仕組みの中で飛躍する若手美容師の姿を追った。

What’s 「推し活プロジェクト」?

シェノン(CHAINON)が今年6月(東京は8月)から開始した、海外の「チップ制度」を導入した仕組み。顧客が「推しの美容師」に1枚100円の「シェノンチップ」を渡すことで投票でき、成績優秀者は海外ツアー、月に200枚以上のチップをもらえば社長と食事会などの特典が用意されている。今後はシェノンチップをトークン化することで、顧客への割引サービスも視野に入れる。

レジ横に置かれたシェノンチップ。ポップなどは一切ない。
「推し活プロジェクト」のトロフィー。

たった3カ月で32万円、推された理由

関西の店舗より2カ月遅れで参加したにも関わらず、1位に輝いたのが「ザ シェノン アオヤマ」のTAIGAさん。3カ月間で最高枚数3278枚のチップをもらった。

「押し売りになるのが嫌だなと思っていたんです、けどカウンターの横につまれた『シェノンチップ』を見て、これ何?と聞いてくれる方が多いですね。最初に100枚買ってくれた方がいて、嬉しいのと驚いたのとでインスタのストーリーにあげたんですね、それを見た他のお客さまが来店時にもっと出すわよと言ってくださったりして、結果3278枚のチップを頂きました」

TAIGAさんのインスタグラムストーリーより。

シェノンチップ額面1000(シェノン)は100円で購入できるため、32万7800円のチップを3カ月間でもらったことになる。TAIGAさんの顧客層は20代半ば~30代半ばが中心、既存顧客が8割を占める。美容意識が高く、上質なものを求める人が多いという。カット、カラー、ケラチントリートメントの3点セットメニュー(34,700円~)を7割の顧客がオーダーするというから驚きだ。

「チップをくださる方が、僕の何を評価してくださったのかは正直分かりません。ただ、信頼関係が築けているということは言えるのかなと思っています。常に意識しているのは『この人じゃないと無理!と思ってもらうこと』、『唯一無二』の存在になることですね。例えば、お客さまに『他のサロンの仕上がりと全然違う』と言っていただくと、ちゃんと唯一無二の仕事ができたなと思います」

「唯一無二の存在であること」を意識するのには理由がある。過去に、インスタグラムなどのSNSを中心に集客していた時に感じたのは、自身が疲弊するということ、新規のお客さまが一時的に増えると既存のお客さまの予約が取りづらくなってしまうということだ。

「SNSで新規のお客さまを集客し続けるのも間違いじゃないと思います、ただ僕には向いていないと思いました。それよりも、既存のお客さまの期待以上を実現し続けることで周りに紹介したくなる美容師を目指しています」

そんなTAIGAさんにとってチップの導入は、技術への評価はもちろん、自身が提供するサービスにも大きな評価が返ってきたと感じ、驚きの連続だったという。

「まずお店に来てくださる時点でありがたいんですが、チップをいただくことで自分の技術やサービスに自信がつきました。特に技術にはずっとこだわってやってきているので、今までは売上でしか見えなかった努力の成果がチップとして形になることで、ちゃんとお客さまに喜んでもらえていたんだと嬉しくなります。同時にもっと頑張らないと、とは思っていますね。美容師はサービス業なので、自分のサービスの価値みたいなものも評価していただけたと思うとすごく嬉しいです」

一部レストランやホテルでは、平均10~15%程度のサービス料がかかる。美容師も同じサービス業、カウンセリングやスタイリング方法のアドバイスなど付加価値を高められるポイントは多いだろう。TAIGAさんの場合も、カウンセリングには自信があり、お客さまの要望を聞き出しながら1人ひとりに似合わせる力が強いと感じた。

推されるためには、まずブランディング!

「この人じゃないと、私の髪は任せられない!」と顧客に思ってもらうためには、何をするべきなのか。TAIGAさんを例に考えてみる。

➀ターゲット層のなりたいスタイルを強みにする

「シェノン入社後、自身のターゲット層がより明確になってきた」と話すTAIGAさん。元々得意だったレイヤーの技術を活かして、ターゲットである25歳~35歳の美意識の高い女性が求めるヘアスタイルを追求した。トレンドのワンホン系デザインは本場中国のアプリ「小紅書(RED)」でチェックしつつ、1人ひとりの毛量やクセを考慮した似合わせ、特に顔まわりのカット・デザインにはこだわっているという。(写真はすべてTAIGAさんのお客さま)

②他のお店にはないメニューを強みにする

新規客の2割は必ずオーダーするという、ケラチントリートメント。他店での導入があまり進んでおらず、かつ技術が複雑なメニューのため顧客の「この人じゃないと!」につながっている。さらにメニューとしての魅力は非常に高く、うねりやクセを補正してハリやコシがでるだけじゃなく、ツヤや質感が酸熱トリートメントやストレートパーマとも違う、とのこと。3週間に1度、何度も施術を重ねることでツヤを増すためリピートにつながりやすい。ただし仕上がりのおさまりがよいため、カットラインが残りやすいなど注意すべき点は多い。

③自分の技術へのこだわりを顧客にも伝える

例えば、新規のお客さまにはカラーの処理剤の話を伝えているという。「処理剤だけでも10種類以上用意があるんですが、今日はこれを使います。あなたの髪がこうなので~という説明は必ずします」当たり前のようにやっているオーダーメイド型の施術を、お客さまにも分かりやすく説明することでより伝わり、顧客には安心感をあたえ、美容師への信頼度はあがる。


真似することは簡単ではないが、自身のターゲット層に合ったデザインを強みにし、さらに他店との差別化ができるメニューを得意にすれば「推される美容師」に近づくのは間違いないだろう。

「カウンセリングは『僕に任せてください』というスタンスです」と話すTAIGAさん。

推し活が美容業界を変える日は近い

今年の12月には、コア銀座(COA GINZA)とのチップバトルも予定されているという。「推し活」といわれると、推される側にもそれなりのプレッシャーや準備が必要なのかと思いきや、用意されているのは紙に印刷されたチップのみ。店内には説明もポップもない。にも関わらず、TAIGAさん曰く「スタッフ全員の意識が、置いておくだけであがる」と語る。この仕組みのシンプルさは、他店でも導入を検討する価値があるだろう。

以前の取材で、CHAINON エンターテインメントの坂口貴徳社長は、「美容師が“楽しみながら”今までない新しい形で自分自身の価値をあげることができる。顧客からの推しが見える化されることで自信に繋がった若手スタッフが続出している。取り組みを通じて、美容師の離職防止・美容業界の価値の向上に繋がると信じる」とコメントしているが、実際にそうなる日が近いのかもしれない。

TAIGA / 「ザ シェノン アオヤマ」プレミアムスタイリスト
Profile
TAIGA

「ザ シェノン アオヤマ」
プレミアムスタイリスト

たいが/1997年生まれ、大阪府出身。高津理容美容専門学校を卒業後、都内1店舗、フリーランスを経て2024年3月「ザ シェノン アオヤマ(THE CHAINON AOYAMA)」オープニングスタッフとして参加。

増田 歩
執筆者
増田 歩

「CHOKi CHOKi」「Ocappa」「BOB」 etc.からのフリーランスライターです。ボブとショートをいったりきたり、趣味にしたいのはヨガ。

Prev

Next