カオスに宿る普遍美。加茂克也の軌跡を俯瞰する『KAMO HEAD』レポート

カオスに宿る普遍美。加茂克也の軌跡を俯瞰する『KAMO HEAD』レポート

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2020年に54歳で逝去したヘアアーティスト、加茂克也さん。〈丸亀市猪熊弦一郎現代美術館〉の個展『KAMO HEAD』で、加茂さんの遺した作品を通じて創作の軌跡をひも解く。

ファッションの世界で、ヘアアーティストの役割はまさに刹那的だ。彼らはデザイナーと息を合わせてモデルの頭部を飾るが、ショーが終わるとその芸術は取り外され、店頭に並ぶこともない。でも裏を返せば、それは商業的な縛りから解放された、純粋な芸術表現とも言えるかもしれない。

2020年に惜しくも逝去したヘアアーティスト、加茂克也さんはまさに「芸術表現」という言葉がピッタリの存在だった。混沌としながらも神秘的な存在感を放ち、一目で加茂さんの作品だとわかる『KAMOワールド』で、世界中の人々を魅了した。

そんな加茂さんの個展『KAMO HEAD』が、香川県にある丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催中だ。ヘッドピースや創作にまつわる資料を通して、これまでの創作活動を俯瞰してみよう。

KAMO HEAD

まず目に飛び込んでくるのは、エントランスロビーの壁一面に展示された200を超える箱型アートピースたち。これはパーソナルワークとして制作されたもので、娘さんと一緒に作ったこともあったそうだ。マルセル・デュシャンやマン・レイといったシュール系の作品に傾倒していた加茂さん。その頭の中を、ほんの少しだけ覗けるような展示になっている。

多彩な素材を用いた“カオス”な世界観

メインの展示室には、〈ジュンヤ ワタナベ〉〈ミントデザインズ〉〈アンダーカバー〉〈アンリアレイジ〉といった国内ブランドから、〈シャネル〉のオートクチュールコレクションでカール・ラガーフェルドから指名を受けて制作されたヘッドピースまでが並んでいる。

担当キュレーターの古野華奈子さんによると、「加茂さんはショーで使った自作のヘッドピースを一つずつ撮影していました。その中から225点を収録した作品集が『KAMO HEAD』です。本展では、その掲載作品を中心に258点のヘッドピースを展示しています。」とのことだ。

2014年春夏〈ジュンヤ ワタナベ〉(パリ)で使用されたヘッドピース。

「僕はいつも設計図を考えずに、手を動かしながら形を考えます。無理をしていたり、激しすぎたりするものは嫌なんです。素直で自然な形を作りたいんです」

展示室で流れているEテレの番組「デザインあ」で、加茂さんがこう語っていた。

このフォークロアなムード漂うヘッドピースも、実は自然の要素がしっかり取り入れられている。存在感あるキジの尾羽根は、1本1本がしっかりと機能を考えて配置されていて、ランウェイを歩くときには美しくなびくのだとか。こうした自然への探求が、カオスな世界観の中に普遍的な美しさを宿しているに違いない。

(左)頭部を覆う複雑な編み込み部分。(右)2012年春夏〈ジュンヤ ワタナベ〉(パリ)で使用された別の作品。異なる羽を組み合わせている。
2009年春夏〈シャネル〉オートクチュール コレクションで使用されたヘッドピース。

バラをモチーフにしたこの陶器のようなヘッドピースは、すべて紙で作られている。それも誰でも簡単に入手できる、ごく一般的な素材だ。

2009年〈シャネル〉メティエダール(フランス語で芸術的な手仕事のこと)コレクションで使用されたヘッドピース。

ロシアの頭飾り「ココシニク」を彷彿とさせるヘッドピース。三つ編みをメインに、フィッシュボーンなどを駆使して細かく編み上げ、立体的なフレームを作り上げている。カール・ラガーフェルドとの制作はしばしば難航し、理解不能なドローイングに頭を抱えたり、デザインを現場でイチからやり直すことも。制作期間が2週間ほどしかなく、ヘアが決まるのはまさに当日だったりすることもあったそうだ。

創作の軌跡に触れる

(写真左)加茂さんが制作作品を記録していたブックで、使った素材などがポラロイドと一緒にまとめられている。
(写真右)アイデアソースのスクラップブック。顔や髪を中心に、中世から近現代の美術作品や動物などもコラージュされている。

隣の展示室には雑誌記事やスクラップブック、制作過程の記録がズラリと並び、創作の軌跡を辿ることができる。スクラップブックは52冊にも及び、その膨大なインプット量が多様でユニークなヘッドピースを生み出しているのは一目瞭然だ。書き込みも豊富で、加茂さんが「常に手を動かしていた」ことがよくわかる。これらのプロセスを習慣として大切にし、アイデアをしっかりと自分の中に落とし込んでいたのだろう。

そして壁に並んだ雑誌記事からは、ヘッドピースがどのように使われていたかを確かめることができる。加茂さんのインタビューページでは、ファッションショーでの制作背景やその壮絶さが伝わってくる。

加茂さんが最後に手がけたファッションショー、2019-2020年秋冬〈アンリアレイジ〉(パリ)で使用されたヘッドピース

最後に、オープニングイベントで行われた〈アンリアレイジ〉によるショーを紹介しよう。これまでファッションに合わせて制作されてきたヘッドピースが、この日は特別に「ヘッドピースのためのショー」として登場した。当時のコレクション以外の服も取り入れたスタイリングが組まれ、加茂さんの長年の功績に最大級の敬意が表された。

6月に美術館で行った〈アンリアレイジ〉のファッションショーの映像

『KAMO HEAD』の会期は9月23日まで。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館は、画家の猪熊弦一郎の作品を多数コレクションし、谷口吉生のモダンな建築で知られる、いわば丸亀市の顔だ。普段は月曜が休館日だが、今回は理美容師のために特別開館日を設けている。ショーで使われるヘッドピースは、通常限られた人しか目にすることができないため、今回の公開は貴重な機会となる。この夏、加茂さんの軌跡にぜひ触れてみてほしい。

加茂克也 /
Profile
加茂克也

(かも・かつや)1965年福岡県生まれ。1988年「モッズ・ヘア(mod’s hair)」に所属し、ファッション誌や広告、ファッションショーなど国内外で活躍する。2003年には、1983年の賞創設以来、ファッションデザイナー以外で初めて毎日ファッション大賞を受賞した。2015年個人事務所「KAMO HEAD」を立ち上げ独立。2020年逝去。2021年作品集『KAMO HEAD』出版。主なコレクション:JUNYA WATANABE、UNDERCOVER、CHANEL、MINTDESIGNS、ANREALAGE など。

◾️「加茂克也 KAMO HEAD」概要
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
会期:2024年6月30日(日) 〜9月23日(月・祝)
時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)
休館:月曜日(ただし7月1日、15日、8月5日、12日、9月2日、16日、23日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)、9月17日(火)

木村 麗音
執筆者
木村 麗音

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