K-1チャンピオン✕美容師・菅原美優の《最強》二足のわらじ
空手、キックボクシング、カンフー、拳法などの打撃系立ち技格闘技の世界一を決めるK-1。
このK-1と美容師の二足のわらじを履いているのがairの菅原美優さん(今年4月にスタイリストデビュー)。
いったいなぜそんなにもハードなわらじを履いているのか聞いてきました!
スタートは空手から
──K-1と美容師はどちらが最初ですか?
K-1のほうが先ですね。そもそも父が地元で中学生から通っていた空手道場があり、わたしも小学1年生から通っていました。そのうち格闘技が好きな母も通うようになって、家族で空手をしていたんです。
──最初は空手なんですね。いつからK-1を始めたのでしょうか?
中学生から道着を着たキックボクシングになるので、自然に転向しました。空手は顔への攻撃はなしですが、キックボクシングは顔へのパンチができるようになるのが大きな違いですね。
──中学生以降はキックボクシングをガッツリやっていたのですか?
実は中学生のころは格闘技から離れていました。小学生は男女合同の50キロ以下で試合するんですが、小学生のころのわたしは今よりもっと背が低くて小柄だったので、アゴやあばらの骨を折ったり、怪我が多くて、今より辛かったです(笑)。何やってるんだろうって理解できない時期でした。
それから高校生になって、久しぶりに試合に出始めたら、相手は女性しかいないので、殴られても全然痛くなくてびっくりしました。そこでやっとスポーツしている気分になり、おもしろさも感じるようになったんです。K-1のアマチュア大会に20試合ほど出て、1回だけ負けましたね。
でも、高校生のころはそこまでキックボクシングをやり込んでいたわけではなく、部活(バスケ部)のあと週3、4回の夜の練習だけです。
──素晴らしい成績なのに、なぜ美容師になろうと思ったんですか?
高校2、3年のころ、結婚式場でバイトをしていて、ウェイトレスをしたり、スポットライトを担当したり、カーテン開けをしたりなど、いろいろやらせてもらっていたんです。その中で、花嫁さんにずっとついているヘアメイクさんを見て、素敵な仕事だなと思ったのがきっかけです。
高校3年の夏に資生堂美容技術専門学校をAO受験して、1カ月後に合格が出たんですが、そのあいだにK-1のプロにならないかと声をかけられました。
──すごいタイミング! それで両方やることにしたんですか?
はい。こんな機会はないと思って。お金を払ってアマチュアの大会に出ていたのが、プロになったらお金をもらえるようになりますし。
それに、母からK-1は男性向けのスポーツだし、いつまでできるかわからないから、プロでやるなら手に職をつけなさいとお願いされ、きちんと美容師の国家資格を取ると約束しました。
それから、高3の1月に現在も所属しているK-1ジム三軒茶屋シルバーウルフに入りました。これまでは空手道場だったので、キックボクシングジムにきちんと通おうと思って。
──そういったジムは簡単に所属できるんですか?
アマチュア大会での実績があったので入れてもらえましたね。K-1ジム三軒茶屋シルバーウルフは、格闘技界で名門と言われているジムです。唯一女子チャンピオンがいて、目標とする人がいるのがとてもいい環境だと思ったのも理由ですね。
──美容学生時代から二足のわらじを履き始めの状態だったんですね。
そうですね。ジムに所属して、最初の1年はアマチュアで経験を積んで、美容学生1年生が終わるくらいにプロデビューしました。卒業後しばらくは格闘技1本でやるつもりで、先生とも話を進めていました。
──格闘技に集中するはずが、なぜairに入社したんですか?
木村直人さん(元air役員)がX(当時Twitter)でわたしのことをつぶやいていたんです。「美容学生しながら、格闘技をしている子がいる、なんだこいつは」って(笑)。それからDMでやり取りしていくうちに、スポンサーになってくださって、ありがたいことに美容師として働く機会もいただきました。
美容師としての側面
──どのようなスケジュールで過ごしているのでしょうか?
営業前にカットモデルを呼んで、練習や撮影をして、11時からサロンワーク。15時にサロンを早上がりして、16時からジムで練習しています。
また夜にサロンで全体ミーティングなどがあれば戻って来るときもあります。
airは週休2日で、ジムが日曜日休みなので、合わせて日曜日を1日休ませてもらっています。
──目まぐるしい1日ですね。
1年目はめっちゃ辛くて、よく体調を崩していました。でもだんだん慣れて、忙しい中でもスキマ時間を見つけられるようになりました。今は休みの日曜日でも、自分が行きたい練習があると、行ってしまうことがあるくらいになっています。
──美容師になって楽しかったことや、辛かったことは何ですか?
やっぱり施術したり、学んだりすることは楽しいですね。お客さまと話すのも楽しいです。もっと頑張ろうって思えます。
辛かったことはこまごまあります。朝早いのも辛かったし、入社当初は自分のような働き方の人が初めてだったので、早上がりして別のことをするのを良しと思わないんだろうな、という不安や孤独感がありました。
スタイリストデビューまでカリキュラムを進めて、数字との勝負をしないといけないのに、夜の練習もできないし、朝早くて肉体的にも大変で……。結果で返さないとって、すごく不安がありましたね。
──でも、ついに4月からスタイリストデビューじゃないですか!
格闘技との両立を会社と相談し、まずはメンズだけでデビューしました。レディスはまだまだ勉強中なんです。
──メンズカットのほうが技術的にはだいぶ難しいような気がしますが……。
昨年8月から、毎朝7時半にメンズのカットモデルを2人呼んで、メンズヘアの練習を徹底的にしていました。先輩も朝から来てもらって、チェックしてもらっていましたね。
やればやるほど「カッコいい」ってなんだかわからなくなっていました。「女性が思うカッコいい」と、「男性が思うカッコいい」が違うし、スタイリングのやり方も違う。女性は前髪や顔周りにこだわるのは想像つきますが、男性が何にこだわっているかも全然わからなくて。
──そうですね、技術の練習だけでは補えない部分です。
もうひたすら街中で男性の髪型を見ていました。どういうつもりで、トップを立たせているんだろうとか、答えの出ないクイズでした。
でも今は、答えは出ないからこそ、カウンセリングでお客さまのこだわりと好みを探していくんだと、思っています。
「これがわたしの使命」という強い気持ち
──楽しみもありつつ、大変なことも多くて、どっちか辞めようとは思いませんでしたか?
今、美容師歴5年目になる年ですが、入社半年で多くの同期があっという間に辞めてしまって。K-1ではいいようにメディアに取り上げてもらってはいましたが、格闘家によく思われていない面もありましたし、両方で孤独を感じていました。
でも、辞める選択肢はありませんでした。これがわたしの使命だと思って。やらなきゃ、やりきらなきゃの必死の時期でした。
──辛いときは誰かに相談などはしていたんですか?
もともと相談するタイプではないので、してなかったですね。1人でしくしくしているときもあれば、キックボクシングがいいストレス解消になるときもあったし。キックボクシングで詰まったら、美容師に集中して、お客さまと会話して気分が晴れたり。
両方やって大変ではあるけど、助けられた時期もありました。2つやるメリットはそれですね! 本当にわたしは恵まれているなと思います。
K-1選手としての側面
──では、K-1選手として、楽しかったことや辛かったことは何ですか?
格闘技は好きでやっているので、全部楽しいですね。試合を重ねていくごとに応援してくれる人が増えるのもうれしいですし。非日常的で、普通では経験できないことを若いうちから経験できて幸せに感じています。
辛かったことも特にありませんね。負けたら辛いですけど。痛いのも辛いのもわかってて始めたスポーツですから。
ただ、人目につく職業なので、心ない言葉にメンタルをやられることは、たびたびありました。20代前半は真っ直ぐ受け止めすぎて、しんどかったです。格闘技に関係ないところまで言われたり、憶測で書かれたりするので。でも、それも受け流すところ、受け止めるところを学んでいきました。
──K-1選手としての得意技はなんですか?
前蹴りですね。お腹や顔に向かって蹴り上げます。女子選手は気持ちが強いから、前に突っ込んでくるので、そこを前蹴りします。
──K-1の男子選手と女子選手の見どころの違いは何ですか?
女子は男子と比べてパワーが少ないから、KOは少ないです。つまり倒すことができないので、判定勝負が多く、延長も多くなります。男子の豪快なKOが目を引く分、女子は物足りない、つまらないという意見もあります。それが長年の女子格闘技の課題でもあるんですが、良くも悪くもまだまだ発展途上で、今後の伸びしろが大きいスポーツだとわたしは思っています。
男子の場合は圧倒的なパワーで倒すことが醍醐味です。男子は倒れるから、叩かずして終わります。女子はそれがないから、ほどよく痛いパンチをお互いずっと浴び続ける。そこが魅力とは言いづらいですけど、もしかしたら女子のほうが過酷かもしれませんね。
あの編み込みをしているのは
──K-1の試合のときのヘアはどうしていますか?
いつも母が編み込んでくれているんです。
──自分でされているんじゃないんですね!
女子は接戦でもみくちゃになるので、しっかり編まないと髪が邪魔になり、試合に支障が出るんです。編みおろしのツインなんて、とれちゃうから絶対ダメですね。
だから、編み込むならコーンローにするくらいまで、絶対に上手な人にやってもらったほうがいいんです。わたしの母は全く美容関係ではないのですが、とても上手で、小学生のころはハートや星のかたちに編んでもらっていました。選手の友だちも試合前日にやってもらいに来るくらいなんですよ。
──選手のみなさんは髪は事前に準備しているんですか?
そうです。遠征試合のときは、遠征地で編み込みをしてくれる美容室を探して予約したりするんです。でもきつく編み込みするのが上手な人がすぐ見つかるわけではないので、母のところにみんな来ますね。わたしは母がいつも遠征先にも付き添いしてくれているので、必ず母に編んでもらっていますね。
──お母さんがいなかったら困りますね。
そうです、母なしでは試合できません。格闘技が好きだし、長年見てくれているので、結構いい指示出してくれるんです(笑)
二足のわらじの強みとは
──K-1と美容師など、二足のわらじはお勧めしますか?
根性さえあればできると思います。性格にもよるかもしれませんが、自分の本当に好きなものなら続けられると思います。逆に、有名になりたいとか、小遣い稼ぎでやりたいとか、不純な気持ちがあると続かないかもしれません。何でも本気でやらないと。
わたしの場合は、自分の好きなものを早いうちにみつけられたから、それをやるだけだったし、恵まれていたと思います。
中途半端にやるなら、自分の好きなことを探す時間にしたほうがいいです。その判断が大事です。
──両方の今後の目標について教えてください。
美容師としては、自分が時間に追われる生活をしてきたから、もっと経験を積んで、スピード感ある美容師になりたいです。そして、たくさんのお客さまを笑顔にしたいですね。
K-1選手としては、今までチャンピオンとして日本で試合をしてきましたが、違うステージにいこうかなと考えています。違う格闘技の世界にするか、何かを入れて総合格闘技にするか、蹴りを捨てて女子ボクシングにするのか……。女性としてのライフプランも見据えつつ、ベストなタイミングを見定めているところです。
まとめ
そもそも美容師の職につく人たちは根性がある人が多いですが、その中でも菅原さんは“最強”の根性美容師かもしれません。「好きなことだからとことんやり尽くす、それがわたしの使命だからだ」と、筆者も胸を張って言えるように精進しようと思います。
- Profile
- 菅原美優
airスタイリスト/K-1ファイター
すがわらみゆう/1999年11月22日生まれ。東京都出身。
【美容師】
資生堂美容技術専門学校卒業後、(株)エアーエンターテイメントに入社。現在、air銀座タワー店のスタイリスト。
【K-1選手】
K-1ジム三軒茶屋シルバーウルフ所属。専門学校在学中の’21年3月にK-1プロデビュー。第3代Krush女子アトム級王者、第2代K-1 WORLD GP女子アトム級王者。
- Twitter : @miyuu11224028
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