《ラーメン×美容師》未だかつてない、二足のわらじに挑戦する理由
今、美容業界に限らず“人生を豊かにするため”に新たな働き方にトライする動きが加速している。その手段は様々だが、その1つに本業とは別の何かを掛け持つ、二足のわらじを履いた美容師が存在する。
今回取材したのは、兵庫県・丹波篠山市のヘアサロン「Linda Linda(リンダリンダ)」の代表、堀川直人さん。
堀川さんは、美容師でありながら、2023年の10月にラーメン店「リンダメンダ」をオープン。1日を通し、そのどちらの現場にも立つ、珍しいワークスタイルを送っている。
そんな堀川さんの作るラーメンがこちら。
あっさりとした鶏ガラの和風スープが特徴の看板メニュー、“中華そば”。器に使われているのは、丹波篠山の特産物で日本六古窯の1つ“丹波焼”。自然な温かみを感じる一杯だ。
また、1日10杯限定の“猪肉そば”にも注目したい。丹波篠山で有名な猪肉を使う牡丹鍋がモチーフで、猪のロースがこれまたスープに合う。今後名物となるかもしれない。
そしてリンダメンダの横に並ぶのが、同年11月にオープンの「Linda Linda」2号店だ。順番が前後してしまったが、元はこの2号店の物件を探していた。そこで偶然にも飲食店も開業できる物件と出会い、ラーメン店を始めることにしたのだという。
美容と飲食を往復する、せわしない1日
堀川さんの平日の流れがこちらだ。なお、土曜は朝ラーメンがなくなり18〜22時までの間、ラーメン営業となる。(2023年12月時点)
現在、リンダメンダは堀川さん1人で厨房を切り盛りしている。平日はこの辺りでは珍しい「朝ラーメン」の営業をしており、朝6時には店に立つ。朝ラーメンが終わると午前のサロンワークに移り、その後も往復しながらラーメン店とサロンに立ち続ける。
また、言わずもがな美容も飲食も衛生業だ。堀川さんは前後にシャワーを浴びるなど、衛生管理も欠かさない。
美容と飲食の両立は、拘束時間以上に多忙を極めることは想像に難しくないはず。
ラーメン×美容師でどう変わる
比較的、過酷な労働環境とされる美容師と飲食店。いったいどんな理由で二足のわらじを履くに至ったのか。その理由と目指す未来について、堀川さんに聞いた。
転機はコロナ禍
──ラーメンをやろうと思ったきっかけを教えてください。
ちょうど店が10年目くらいに世間でコロナ禍が始まって、売上的には良かったんですけど、スタッフも育ってくるし「このままでええんかな」って考え出すようになったんですよ。何か一歩踏み出さんことには、落ちていくんじゃないかって。ダブルライセンスを取ったり、自分のやれることをやってみようと、もがいてた時期があったんです。
そんな時、香川で飲食店を営む弟が、「丹波篠山は観光地だし、ラーメンなら3ヶ月くらいでレシピ覚えられるで」って言ってくれて。1回離れたところから店の感じを見るきっかけにもなると思ったんで、しばらく修行しに香川に行きました。
丹波篠山に帰ってきてからは、主にイベントにキッチンカーで出店しました。いろんな失敗したんですけど、1日に200杯売れたことがあって。そこから「両方やってみるんもええかな」っていう気持ちになった感じですね。
二足のわらじを履く意味
──「ラーメン×美容師」が持つ強みはありますか?
サロンに行く前後にラーメンを食べてくれるお客さんがいます。最近では、ラーメンを食べて「サロンに行ってみたい」と言ってくれる新規の方も結構増えてきました。あと、ラーメン自体が年配の方にウケるんですよ。今まで多くなかった60代から70代の方の集客に一役買ってくれています。
ラーメンっていうのも宣伝しやすいです。エステとか美容に結びつくものだとどうしても営業っぽく聞こえてしまうんですが、ラーメンは全く違う畑なのですすめやすいしお客さまも抵抗なく受け入れてくれる気がします。
──ラーメン店と美容師で違うと感じるところは?
圧倒的に違うのは“ものが腐る”ということ。あとは忙しさの質の違いです。美容室は完全に予約制なので、1日の流れがわかるじゃないですか。だから事前の準備や心構えもしやすいんですけど、ラーメンの場合は急に10人が来てくれたりとかするので、そこの違いはめちゃくちゃ体感します。
もっというと美容室の忙しさはチームで解決するので、そこに楽しさもあります。特にうちのサロンは担当スタイリストはいるものの、“みんなで回す”という意識が強いんです。
ラーメンの忙しさは完全に自分1人で回さないといけないので、無茶苦茶いろんなところから汗が出る感じなんですよ(笑)。ただ、回し終わった後の達成感は気持ちいいですけどね。
──美容師として、ラーメン店を始めたことによって自身の考え方に変化はありましたか?
やっぱり美容師はええなって思いますね。ラーメンは早いと10分15分ぐらいの関係じゃないですか。もちろん美味しいなって言ってもらえるのは嬉しいんですけど、美容師は1時間くらいはお客さまと向き合うわけで。
自分が作ったものをお客さまに喜んでもらえる仕事ってそんなにないと思うので、自分が思った通りにできて、お客さまもイメージ通りだと喜んでもらえた時は、最強に嬉しいです。それはラーメンをやったから余計に感じるかもしれないですね。
あくまでラーメンは経営の一環。本業は美容師。
──今後、挑戦していきたいことやゴールはありますか?
「珍しいからやってるんでしょ」って意見もあると思うんですけど、そうではなくって。単にスタッフが僕のお店で稼いで幸せになってくれる、そんな場所を目指してやっているんです。
何百万も売り上げるスタイリストって、誰もがなれるわけではないじゃないですか。ただ、美容師だけだったら難しいかもですけど、他のこともやることで近い数字に持っていくことは可能だと思います。もちろん、やり方は人それぞれだから、僕はただ背中を見せていきたいですね。それが今回たまたまラーメンなだけで、ただの偶然なんです。
メインはサロン経営であって、ラーメンはその一環。今はありがたいことにスタッフも伸びてきて、売上の新記録を目指せるところにいます。2023年も結構上がってきてるんですけど、今年(2024年)はさらに倍くらいいきたいですね。
- Profile
- 堀川直人
Linda Linda 代表
1980年11月13日生まれ。香川県出身。高校時代に調理師免許を取得。その後、大阪のサロンで働きながら大阪美容専門学校の通信課程に通い卒業。営業職や他サロン勤務を経て兵庫県丹波篠山市に現在の「Linda Linda」をオープン。代表を務める。2023年の10月にラーメン店「リンダメンダ」をオープンし、翌11月には「Linda Linda」の2号店をオープン。美容師とラーメン店を掛け持つ。
- Instagram : @linda_linda0901
- 執筆者
- 木村 麗音
- Twitter : @kamishobo
- Instagram : @bobstagram_kamishobo