フリーランス美容師は持続可能か

東京都美容生活衛生同業組合(金内光信理事長、以下BA東京)は3月24日、第8回BA東京美容サミットを美容会館(東京都渋谷区)にて開催した。テーマは「フリーランス美容師のこれから」。美容業界へ向けたサービス事業を手掛ける代表や複数店舗の展開・シェアサロンの運営を行う経営者、実際にフリーランスとして活動する美容師といった有識者たちが業界の現状と抱えている課題を再確認し、未来の方向性について討議した。

開会の挨拶に立ったBA東京理事長、金内光信氏は「業務委託型サロンやシェアサロンといった業態で働く美容師が増え、メリットの一方で構造的なデメリットを感じている美容師様も多い。この会を通して現状の業界課題を理解し、よりよい社会的状況を実現するための方向性を見出したい」と開催の目的を説明。

パネリストは以下の通り
岩井大輔(株式会社ハルカホールディングス 代表取締役)
永田紘介(楽天グループ株式会社 楽天ビューティ事業部 ジェネラルマネージャー)
千葉智之(株式会社リクルート ホットペッパービューティーアカデミー長)
中野剛志(株式会社MIRROR BALL 代表取締役)
寺村優太(株式会社スリー 代表)
菊地尊(JOMELL.代表 フリーランス美容師)
SHOHEI(YouTuber フリーランス美容師)
水島博己(社会保険労務士・行政書士)
BA東京役員ら。

「フリーランス美容師の現状と課題」

現在、業務委託型サロンやシェアサロンといった業態で働くフリーランス美容師は8万人に上る。直近の調査によるとサロンの約15%が業務委託専門、正社員とハイブリッド型が約25%前後、残り約60%が正社員雇用のみのサロンとなっている。業務委託とシェアサロンに明確な定義はないが、一般的には集客を店側が行い、売上がお店に入るのが業務委託、集客も行い売上も美容師に入るのがシェアサロンとされている。シェアサロンは運用開始から間もないため具体的な課題が見えるのはまだ先としたうえで、業務委託型については「教育」を課題とする意見が多かった。

現状では、フリーランスでは受動的な教育機会や、気軽に利用できる練習場所の獲得は難しい。よって技術的な成長がさらに個人に依拠する形になり、今後長い視点で見たときにフリーランスが美容師としてのレベルを落としてしまう懸念がある。これは美容業界に限らずフリーランス特有の課題として認識されているが、フリーランスに参入する際に見落とされがちなポイントだという。

一方で、実際にフリーランスとして活動する美容師からは、教育の側面から見たレベルの低下はフリーランス美容師の課題ではなく美容業界全体のものだという意見もあった。離職を防ぐなどの理由から「早期のスタイリストデビュー」という風潮が起こり、業界全体のレベル低下させている。ともすれば個人での集客力・SNS等の発信力をもったスタッフがより力をもつようになるが、サロン内で発信における手間は仕事とはみなされない。もちろん残業代や手当が支給されるわけでもないため、結果フリーランスの道を選ぶ人が増えたという逆説的な見方だ。

また他にも運営にあたって、「雇用関係にあるとみなされるリスク」を回避するために指示命令系統がないという前提で進められているが、公衆衛生や消費者保護の観点で不透明さや不確実性が残る点が問題視されているようだ。

フリーランス美容師という働き方とその未来

経営者側は、情報格差がなくなりフリーランスが台頭したことで、この先さらに教育環境や理念(ブランド)が重視される時代がくると予想。雇用型サロンは組織のもつ価値を原点に立ち返って再確認しなくてはならないフェーズに入っている。場合によってはスタッフとの資本関係の結びつきや小ぶりのM&Aが積極的に行われるなど、流動的な業界へ向けた新たな挑戦がキーとなってくるのだという。
また、美容業界へ向けたサービスを展開する事業者側からは働き方そのものが増え、選択肢が増えているのは良い傾向として、企業は企業体で個人をエンパワーメントできる組織体制を目指し、個人はITの力などを借りて活動を加速していく必要性が語られた。

新たな働き方の根底にあるニーズ

今こうして存在感を増してきた背景には今の美容師がもつ働き方に対する価値観が大きく影響している。

上記の記事内でも、業務委託型サロンで働く美容師を対象にその転職理由を調査したところ、第1位は「自由に働きたいから」となった。実際に働いた感想についても「お客さまにマンツーマンで向き合える働き方が気に入っている」「収入はそこそこでも、自由に働けるので気に入っている」が上位を占め、金銭的理由よりも自由な働き方と顧客との関係性を大事にしている人が多いようだ。今後の可能性として、こういったニーズを満たし、フリーランスのデメリットをカバーできる構造をもったサロンやハイブリッド型モデルの台頭を予感させる会となった。