韓国美容師40名がukaのブランディング学ぶ

株式会社髪書房KOREA(ソン・チョンソプ社長)は2月21日、東京・六本木などにサロン展開し、各種プロダクツも製造・販売するuka(ウカ)の渡邉弘幸社長を講師に「ukaブランディングセミナー」を開催した。

この日、東京・渋谷のカンファレンスルームに集まったのは、同社主催の日本ツアーで来日したMZ世代・韓国人美容師40名。
2009年に大手広告代理店・博報堂から転身し、ukaのマーケティングやブランディングなどを手がけてきた渡邉氏が、「人に対しての教育」「辞めていくスタッフについて考える」「サロンが持続していくために」「スタッフが辞めない仕組みづくり」の4つのテーマでその経験を語った。

●『アンチ、コピー育成』の教育方針

同氏が在籍していた博報堂には、人材の考え方を表す言葉として「粒ぞろいより、粒違い」がある。個の力、自身で考える力を尊重し、それぞれのオリジナリティが粒立っている多様で異なる個性が望まれる風土だ。
しかし、転職して目の当たりにした美容業界の教育方針は「粒ぞろいどころか、コピー人材の育成」だった。オーナーをはじめとする教育者達は、無意識にスタッフを自分の型にはめ、自身のコピーをつくろうとしてしまう。それは結果としてオリジナルの良さを損ない、移りゆく価値観をアップデートできないままサロンは衰退の一途を辿ってしまうのだという。
渡邉氏は「粒ぞろいより粒違い」をどうつくるか「アンチ、コピー育成」を教育方針に据え、ukaのブランディングを始めたとのこと。

●言語化することで「uka」ブランドを定義する

まずはじめに、インターネットが普及するなか検索ボリュームの大きさで認知に不利であった「エクセル」というブランド名を「uka」に変更した。この名前は「僕たちを利用したお客さまが、蝶のように羽化する」という価値をそのまま表現したもの。検索ボリュームも表計算ソフトの記事が膨大にヒットする「エクセル」と比べ圧倒的に小さい。

次にコピーライティングを用いてukaの基本骨子を言語化した。
①ukaのビジョン:「うれしいことが世界でいちば多いお店」になるために何が必要なのかを社員全体で課題を共有。
②ukaのDNA:「本物の技術」「本物の感性」「本物の気配り」という創業者がいつもスタッフたちに唱えていた言葉に未来志向、教育志向に解説文を添え社員で共通の解釈を持つようにする。
③ukaの企業理念:ブランドが接続可能なものになるようルールを定め、企業理念として機能させる。

これらは創業者や、先生、師匠といった尊敬すべき人の経営哲学をベースとし、未来志向で明文化することによって、それまでの”背中を見て学ぶ文化”から”語って繋いでいく文化”を目指した産物。
渡邉氏は14年かけてこの土壌を築き、最近ではそれぞれのスタッフが粒違いの1つとして、研鑽し合うチームとして成長してきていると述べた。

具体的にどんなことを教育としておこなってきたのか、代表的な事例を紹介した。

●ukademy(ウカデミー)の開校

「社内に生涯教育を目指した大学を創ろう」という構想のもと、常に学び続ける環境創りとしてスタートした「ucademy」。コンセプトは、「自ら考える、自ら生き抜く構想力のベースとなるヒントを提供する場」で、その代表的なプログラムに「19(ジューク)」がある。

19とは、新卒新人を対象に年19回、サロンに出勤せず外部講師と同期のみで行われる終日座学の研修だ。ukaでは、新人の早期退職による慢性的なアシスタント不足が続き、主な退職理由は「経営者や先輩と合わない」であった。
その原因は新人たちの課題発見、解決能力、ロジカルシンキング、プレゼン力にあると考え、19では個々が課題の発見から解決、プレゼンをし、自身で考える力を養う。1日の最後には、「明日から私ができること」をまとめ、翌日の朝礼で店舗のスタッフに向けてプレゼンする。これにより、本人の成長に加えて社内に「新人を育てよう」という意識が高まり、良好な関係性が構築されたことで離職率は減少した。さらに現在では、社内全体にその効果が波及し、全員が自分の意見を論理的に説明しようとする風潮を見せている。

●クリエイティブコレクション

ウカ美容室部門の最高の舞台が、毎年11月末に撮影されるクリエーティブコレクションだ。「その年を象徴するような社会的課題を、 ビューティの力で解決する」という志のもと、ukaの選抜スタッフと日本のモード、ビューティ業界を代表するクリエーターたちがコラボレーションして制作にあたる。 複数回に渡るセッションを通して臨む撮影では、サロンワークだけでは得られない刺激と、重くのしかかる責任感がスタッフの成長を促す。作品はメディア各社にウカから年末の挨拶として郵送され、クリエーションの仕事獲得の機会にもなっている。

●CS調査

ウカが11年前に導入した顧客満足度向上調査「ukaizen」。“何を聞くか”を重要視し、ukaが「今までとても大事にしてきたもの」「将来も決して変えてはいけないもの」 を選りすぐり、どのように伝わっているかを具体的に、かつシンプルに聞いている。
その内容は、①技術②感性③気配り、がどのように思われているか。
質問内容を、技術、感性、気配りに紐付けて設計し、10段階評価で職種ごとに分類。さらに店、チーム、個人のそれぞれの単位で統計を出し、絶対値と相対値の両視点で分析し教育課題の発見に繋げる。
ukaに触れた顧客が、具体的になにが「うれしかったのか」なにが「うれしくなかったのか」。その有無、内容と発生率を把握し、各部門の評価数字を一目で比較できるサマリーを作成している。

●高い回答率

一般企業でも実施される顧客満足度調査だが、平均回答率は2割から3割程度。 顧客との関与度が高い自動車やホテルで4割〜5割程度とされている。 そんな中、ukaの満足度調査は毎年7割近い回答率を叩き出している。 理由に美容業そのものが他の業種と比べ顧客との関与度が高い点があるが、加えてウカには「回答してよかった」 と思ってもらう仕掛けがある。ukaizenで寄せられた意見や要望に対してどのような対応を行ったか、新聞形式の印刷物として発行し来店した顧客に手渡ししているのだ。 これによりukaizenに回答した顧客はその関心から、施術中に夢中で目を通すし未回答の顧客に至っても次回の調査への参加率が上昇するのだという。

●高いNPS

NPSとは、ネットプロモータースコアといって「製品やサービスをどのくらい他の人に薦めたいと思うか」を測る尺度だ。「顧客満足度」よりも業績やその後の購買行動との相関が深い調査方法として今年から導入した。ウカは美容室利用客の平均が46.8%、コスメだけを取り扱うウカストアは67.5% と、昨年よりも10ポイントアップ近いスコアを記録している。

最後に渡邉氏は、4年前に他界した先代が残した「最大のライバルとは時代の変化である」という印象的な言葉を紹介。「美容室業は、目の前のお客さまに満足していただくことが全て。常に目の前のお客さまに求められる美容師=時代から求められる美容師の教育が、もっとも重要なことであると考えている。常に時代に求められるウカを、これからも追い求める」と締めた。