リピート購入を支えるECであるために。milbon:iDの挑戦

リピート購入を支えるECであるために。milbon:iDの挑戦

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2020年6月に本格スタートしたミルボンの公式オンラインストアーズ「milbon:iD(ミルボンアイディー)」の登録会員数が40万人に迫る。

目標を大きく上回るスピードで登録会員数が増加しているその背景とmilbon:iDが目指す未来を株式会社ミルボン 取締役 経営戦略部長 坂下秀憲氏に聞いた。

本当は「もっと知りたい」「もっと伝えたい」

お客さまの中には商品のことが気になっていても、「忙しそうだから聞けない」と思う人がいる。

「質問した以上は買わないと・・・」と思ってしまうお客さまもいる。

一方、「実は商品が気になっていること」に気づけないほど忙しい日が、美容室にはある。

お客さまを思う気持ちは人一倍強いけれど、提案が苦手な美容師もいる。

美容室で日々起こる美容師とお客さまの“遠慮”によるコミュニケーションの“溝”をデジタルで埋めたいという想いからmilbon:iDは生まれた。

坂下氏はmilbon:iDの原点をこう振り返る。

「お互いを気遣う、ほんの少しの遠慮から生まれるコミュニケーションの“溝”をデジタルで埋めたいと考えていました。

ミルボンでは店販を髪のプロフェッショナルである美容師さんの知識・知見を伴って提案するという意味から『知販』と呼んでいます。

対面でカウンセリングをして、髪質や季節に合わせてお客さまと継続的なコミュニケーションを取り、知販を行う場所が美容室というリアルな場。

1対1の心が通うコミュニケーションを継続させるために、ミルボンとして何ができるか? を考えてきました」

株式会社ミルボン 取締役 経営戦略部長 坂下秀憲氏

デジタル化の波に乗り遅れないようにmilbon:iDを開発したわけでも、コロナ禍でのオンラインショップ需要の高まりに乗ったわけでもない。

すべては継続的な1対1のコミュニケーションのためだった。

商品を勧め、購入してもらうか否かをハッキリさせることは、ときに継続的な1対1の関係に亀裂が入ることもあり得る。

milbon:iDの会員になってもらえれば、美容師は無理にお勧めした商品のクロージングをする必要がなくなるのだ。

お客さまも商品の購入を「その場で決断しなければならない」こともなく、帰宅途中や自宅でゆっくり商品を選ぶことができる。

店頭だと店舗平均4,800円程度(ミルボン調べ)の購入単価に対し、milbon:iDの購入単価は平均12,000〜13,000円だという。

店舗で商品を買うよりもmilbon:iDの利用額は1回あたり3倍の金額となっており、技術料金を同時に支払う必要がないことや、持ち帰りの負担がないことなどが、milbon:iDでの利用を後押ししていると思われる。

リピート購入をデジタルで支える

milbon:iDの構想が練られ始めたのは17〜18年前に遡る。

美容室でヘアケア商品を購入したことがある顧客のうち、約60%の顧客がリピート購入に至らないと言われており、その理由は、商品は気に入っていても「商品だけを買いに行くのは面倒」など購入の不便さが大半だった。

美容室の予約タイミングとは関係なく「欲しいタイミング」で商品を購入できるような仕組みを構築したいと考え、2017年から本格的に事業化の準備が進められた。

「美容師さんが新規で知販を提案する力があっても、『サロンの予約タイミングと合わない』『商品を持ち帰るのが重たい』などといった理由でリピート購入が伸びない状況を何とかしたいと考えていました。

ECは“売り方”であり、美容室の店舗で選んでもらった“コト”に価値がある。

リアルなコミュニケーションに価値を感じてもらえなければ、どんなに素晴らしいECでも、それは心の通うコミュニケーションの継続にはつながりません」

知販のリピート購入を支えることで、1対1のコミュニケーションは継続していく。

ミルボンがEC事業を通して解決したかったのは、やはり美容師とお客さまの1対1の継続的なコミュニケーションなのだ。

立ちはだかった開発の壁。しかし、貫くべきこと

2015年頃から海外ではメーカーが直接消費者へ販売し、サロンへ販売料の還元を行うECビジネスがスタートしていた。

ECシステムで商品を直接消費者に売り、美容室に分配すればシステムとしてはシンプル。

しかし、「美容室の売り上げに貢献するシステムをつくる」。

これは絶対にブラさず、リピート促進や店販購入客比率を上昇させることで、美容室の生産性向上に寄与するBtoBtoC型であることにこだわった。

開発が進むと、美容室・ミルボン・ディーラーを1つのシステムに紐づけ、さらに手数料や送料、決済代行会社への支払いをシステム化することは想像以上に複雑を極めた。

「開発を行なったシステム会社からは、何度もミルボンさんが消費者へ直接販売して、美容室やディーラーへ利益を分配した方がシンプルだと言われましたね(笑)。

しかし、『ヘアデザイナーを通じてお客さまへ確かな価値を伝える』ことは、ミルボンが最も大切にしている考え方です。

なんとしても、美容室がmilbon:iDというプラットフォーム上にオンラインストアを開設し、『お客さまが利用している美容室から購入する』という仕組みを構築したいと模索しました。

メーカー直販サイトと区別するために公式名称を『公式オンラインストアーズ milbon:iD』とし、さまざまな美容室がmilbon:iDという空間に出店しているという意味合いで『ストアーズ』と複数形にしています」

2019年にコスメ関連商品を先行させてmilbon:iDで販売し始め、2020年6月にヘアケア商品も取り扱いをスタートさせた際は、取り引きのある美容室からECに対する懸念の声もあったという。

車社会の郊外型美容室では、詰め替えシャンプーなどの重い商品も車で持って帰れるため、ECに取り組む理由が1つ減ってしまう。

また、開発前から課題となっていたのが送料の問題。

美容室からも「お客さまに600円の送料をいただきにくい」というお声もチラホラあった。

しかし、「デジタルでリピート購入を推進したい」

この強い想いは変わることなく、取り引き美容室やディーラーを中心に次第に伝染し始めた。

「新規での商品購入率が高くても、リピート率が低い今までの売り方には限界があるという考えに共感いただき、全社のプロジェクトとして取り組んでくださったディーラー様もいました。

まさにミルボンとディーラー様の二人三脚です。

デジタルが苦手な美容師さんには訪問して、画面を見ていただきながらアナログでサポートしてきました。

送料の問題は、消費者が送料を払うことに対して数年前よりもハードルが下がっていることを伝え、徐々にサロン様の理解を得られたと思います」

milbon:iDが美容室の売り上げに貢献し始め、いくつか実績が出てくることで景色が変わってきたという。

美容室によってはブランド全種類を取り扱い、店販売上147%を達成した美容室も出てきた。

進化を続けるmilbon:iD

消費者の「あったらいいな」を仕組み化し、美容室にとっての利便性も追求した独自システムがmilbon:iDには搭載されている。

①CRM(顧客関係管理)をまわす

徹底的な顧客管理・分析をもとに直近の購入に対してメール配信を行っている。

メールの文面は商品や購入時期によって300通りの文面があり、送る回数は3回。

1回目は、お礼のメール。

2回目は、1週間後に「商品はいかがですか?」といった内容のお伺いメールを。

3回目は、購入商品のサイズによって、残りわずかな容量となったタイミングで3回目のお勧めメールが自動で送信される。

美容師に変わって、リピートを促進する情報をデジタルの力でサポートしている。

②ライブコマース

2022年からライブコマース(※)をスタートさせ、すでに20回ほど開催している。

※オンライン上でライブ配信などをしながら販売する仕組み。

ライブ中のディスカウント販売をウリにするライブコマースが一般的だが、milbon:iDのライブコマースは商品の紹介のみ。

実店舗で得られなかった商品情報や、「もっと知りたい」を叶える情報提供の場になっており、現在トータル2万人が視聴している。

これまでミルボンの開発者や企画担当者が商品の特徴を伝えてきた。

今年11月16日には感謝祭として人気モデルを迎えたトークショーも開催。

2023年以降は美容室が主体のライブコマースも計画しており、自分が通っている美容室がライブに登場することで、身近に感じてもらえる企画を計画中だ。

③POSシステムとの連動

milbon:iDのシステム上では美容師とお客さま1人ひとりがつながっており、milbon:iDで購入された商品の売り上げは美容師ごとに管理できる。

しかし、これまではPOSシステムとは別にmilbon:iDの管理を行う必要があった。

2021年10月より、milbon:iDとPOSシステムと連動させたことで、milbon:iDの売り上げデータまでを含めた顧客情報をPOSシステムで一元管理できるように。

POSシステムの「Salon Answer (サロンアンサー)」「Salon de Net(サロンドネット)」「POS lab(ポスラボ)」と連携しており、今後も順次、連携するPOSシステムを拡大していく予定だ。

現在、「milbon:iD」の登録会員数は約39万人、導入サロンは約4700店(ともに2022年10月末現在)。

2026年には登録者100万人を目指している。

全国的な店販購入客比率の平均値は15%前後だが、milbon:iDの取り組みサロンにおける店販購入客比率は30%を目指していきたいという。

知販で変わる、美容室の“あり方”改革

ミルボンが中期ビジョンとして掲げている「ビューティプラットフォーム構想」。

「スマートサロン戦略」と「ビューティライフケア戦略」の2本柱で政策が立てられている。

“サロンのあり方”にイノベーションを起こす「スマートサロン戦略」

“サロンのあり方”の革新を目指し、ミルボンはビューティプラットフォーム構想の1つとして「スマートサロン戦略」を掲げている。

milbon:iDでは、すでにイーコマースやライブコーマースを実現。

ノンバーバルとは言葉を介さないという意味で、ミルボンが考えるノンバーバルコマースとは、美容師の言葉による説明がなくてもお客さまに商品を紹介し、商品を理解いただき、購入していただけるサービスを指す。

お客さまのスマホに美容室で使った商品のリコメンドが自動で送信されたり、セット面に設置されたモバイルに自動で使用スタイリング動画が映し出され、その体験が購入につながるなど、ノンバーバルコマースによる顧客体験は無限大に広がる。

美容室での顧客体験は、言葉(バーバル)なものよりも、「見て、体験してどうなったか?」という非言語(ノンバーバル)なものも大きく、リアルとデジタルの融合でヘアスタイルを管理できる機能も検討中だ。

美容師の“役割”が進化する「ビューティライフケア戦略」

今後は美容室で扱う商品も、商品を勧める美容師の役割も進化していく。

お客さまにとって美容室は、

  1. リアルサービスである
  2. 定期的にリピートする
  3. 長時間滞在する

という特徴がある。

そして、多くのお客さまに“担当美容師”がいる。

この“美容室”の特徴や強みを活かした事業モデル「ビューティライフケア戦略」では、髪だけでなくヘアケア・スキンケア・ビューティヘルスケアの3つのケア構想に注力する。

美容室を新時代のビューティスポットとして、美容に対する体験をアップグレードしていく考えだ。

「スマートサロン戦略」と「ビューティライフ戦略」。

この2つのビューティプラットフォーム構想を軸に、リアルな体験ができる美容室の強みを最大限に生かし、美容師・美容室の価値を高めていく。

1対1の継続的なコミュニケーションの原点が美容室にあるからこそ、美に関することはすべて美容室で相談したくなるビューティプラットフォームになると確信している。

ボブログ編集部
執筆者
ボブログ編集部

成長し続ける美容師のための髪書房ウェブメディア『ボブログ』。これまでにないスピードで変革する時代に必要な情報【パラダイムシフトの芽】をいち早く見つけ、掘り下げ、新しい常識を提案します。

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